すももももも

山梨が果物王国であることは以前書いた。それくらいは住む前も知っていたけれど、こっちに来て初めてわかったのは、果物王国では「おすそわけ」を頂く機会も少なからずある、という事である。

今朝、いつもお世話になっている先生が研究室を訪ねて下さった。「家で育てているので良かったら」と袋一杯に入れて下さったのは、すもも! ご自宅で育てておられるそうで、レモン、グレープフルーツやキュウイなど酸っぱい系フルーツが恐らく妊婦よりも!?大好きなタケバタ(ついでにお腹も妊婦なみ・・・)としては、この上もない幸せ! 研究室の冷蔵庫に入れているのだが、今朝から既に3つ目を口に入れた! 先生、ありがとうございました。

先週は大学で七夕祭りがあったのだが、その際には職員の方から「自宅でなった桃だから持って帰って」と美味しい桃を3つも頂く。これもめちゃくちゃ美味しかった。妻はこれまでフルーツが「甘ったるい」と好きではなかったのだが、その桃はえらくお気に入りのようで、パクリと一個丸ごとご相伴なされた。果物観が変わった、とは彼女の弁。確かに、この山梨では「すもも」も「もも」も、めっちゃ美味しい。いかにこれまで大阪で安い果物しか食べてこなかったか、というのもあるけれど、本場の果物は、王国の冠たるに相応しいおいしさがあるなあ、と思う。

あと、おすそわけ、と言えば、妻は妻で職場で昨日はキュウリをどっさり頂いて帰ってきた。元来野菜は何でも大好きな我々なので、めちゃくちゃ嬉しい。そう、こうやって何かを頂いたり、お返しをしたり、っていうのを相互に報酬しあう、という意味で「互酬性」って言ったんだよなぁ、と基本的な事を思い出す。で、なんとなく気になって「酬」の字を漢和辞典(角川新字源)で引いてみると、酒と相互を意味する州がくっついて、「たがいに酒を飲みかわす」意があるそうな。ついでだから福祉社会事典(弘文堂)も引いてみると、「あくまで贈与と返礼によって形成されている相対的な関係概念」とある。確かにお互いが持ち合うものを贈与と返礼を繰り返し、たがいに酒を飲みかわしながら、「えにし」を築いてきたのが、日本的な原風景だった。「都市部では崩壊しつつあるこの原風景が山梨では自治会や無尽という形で色濃く残っている」、と社会学の先生にも伺ってはいたが、すももや桃が、その原風景を「おすそわけ」という形で僕にも実感させてくれた。

ただ、この福祉社会事典の「互酬性」の項には続きがある。
「近年では福祉供給システムへの住民(市民)参加が促されているが、住民参加型福祉サービスは、住民がサービスの提供者であるとともに受益者でもあるという互酬的な意味を持った活動として積極的に評価されている」
ここに至ると、実は少し困惑してしまう。確かに地域でのNPOや草の根ネットワークの中から互酬的サービスが立ち上がり、それが地域の社会サービスのあり方を変革する大きな先導役となっている事例をいくつか知っている。でも一方で、住民参加型福祉への疑問の声も出ている。

たとえば森川美絵氏は、住民参加型福祉サービスについて「家族介護の費用化を一定程度推進させたが、他方で、在宅介護の経済的評価の準拠枠を『主婦パート』水準とすることも推進してきたのである」(「福祉国家とジェンダー」明石書店、p148)と述べている。つまり、住民達で介護サービスのNPOを立ちあげて、家族介護から介護の社会化を目指すことは成功できても、その担い手はあくまでも主婦層が中心であり、「介護=主婦がパートでする仕事=低賃金」という論理からは抜け出せていない、という指摘である。一見住民参加型福祉サービスは行政と市民のパートナーシップを謳っていて、理念としては聞こえがいいのだが、実際のところ、行政が自分達よりも安上がりな市民(の中でも主婦)に代替させているのではないか、という指摘は、大いにうなずける。住民参加型の互酬的サービスを前面に出せば、行政は福祉サービスに限定的な責任しか取らなくても許されるのではないか。では行政がとるべき責任っていったい何のか・・・。この問題はもしかしたら、すももを下さった先生が僕に教えて下さったガバメントとガバナンスの問題につながっていくのかも知れない・・・。

こうとりとめなく考えているうちに、すももをもう一個食べてしまった。むむむ。先生は僕に考えさせるために、すももを教材として下さったのかぁ。そう思いながら、さすがにお腹も頭もふくれたタケバタであった。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。