40分間ライブ

久しぶりに電車の中でパソコンを開いている。。

西大路から乗った、加古川行きの快速電車。そう書いても甲府の人にはピンとこない地名だらけ。そう、今日は京都の実家から大阪のフィールドに出かけるために、JR東海道線に乗っている。そして僕が乗ったのは、京都駅から大阪方面へ一駅目の西大路。そう、あの東大路、西大路、の西大路駅。ここは、僕が大学時代にいつも利用した駅でもある。

僕は大学院生の時に一人暮らしを始めるまでは、ずっと実家から通っていた。高校までは自転車で通える範囲で、予備校は大阪だけれど阪急電車を使っていたので、このJRに頻繁にお世話になることになったのは、大学に入ってから。1,2回生(関西では大学生は回生と言うんだけれど、よそでは言わないようですね)までは大阪まで一度出て、そこから私鉄に乗り換えて大阪空港の近所まで出かけ、3回生以後は昔の万博会場後がキャンパスなので、大阪より少し手前の茨木駅まで乗って、そこからバスに通っていた。どちらにしても、JR西大路駅から普通電車にのって出かける、というのは、ある種「身体化された」パターンだったのだ。

この電車は、車窓がすごく良い。ちょうど今書いている最中に列車は山崎駅にさしかかった。ここはサントリーウイスキー「山崎」のあの山崎、である。そういえば、山梨には「白州」があるし、なぜかウイスキーの産地近くに住んでいることになる。ま、それはさておき、この天王山の戦いが開かれたあたりは、京都と
大阪のちょうど中間なのだが、まだ田園地帯が残っているのだ。

山梨に来ると、田園やぶどう畑がすっかりおなじみの風景になったが、それまで京阪神で暮らした僕にとっては、田園は年を大事に消え去っていく風景。だが、この京都と大阪の中間地帯には、結構昔からの農家や集落、そして今は青々とした稲作風景が垣間見られる。春は山崎の神社の桜も見られるし、秋から冬の稲作後の風景も「いとわびし」である。また、JRからちょうど西側の車窓では、見事な夕陽を拝むことも出来る。電車の中では本を読んだり、必死になってレポートを書いていることもあったけれど、なぜかこの山崎付近ではぼんやり車窓を眺めて、思考回路のスイッチを止めていることが多い。そして、この風景を眺めながら、のスイッチオフの状態が、気分のリフレッシュにたいそう役に立っていた。

スイッチオフ、と言えば、大阪に出張の際によく利用する身延線も、ぼんやり眺めるには実に良い車窓である。富士川沿いにうねうね山道を越えていくのだが、昔の軽便鉄道の規格をそのまま使っている為もあってか、とにかく急カーブの連続。すると、「特急電車」と言えども、時速20キロくらいでえっちらおっちらと曲がっていく。横を走る車がびゅんびゅん抜いていく、現在にしては珍しい、のんびり「特急」である。甲府-静岡に2時間がかかる。それでも新横浜まわりより少し早いので、時間帯が合えばこちらを利用する。この身延線の緑あふれる風景も、本来読むべき宿題の書類達を忘れさせてくれるに充分な風景だ。こうして「出張の際には読めるだろう」と毎回欲張って本や書類を一杯入れていくのだが、その半分以上!?が単なるバーベルの役割を果たしてくれているのである。とほほ。でも、富士宮から富士にかけて見える富士山は、やはり毎回見とれてしまう。

かように僕は電車旅が嫌いではない。というか、告白するとその昔は「てっちゃん」(=いわゆる鉄道オタクってやつ)だったのです。でもオタクとしてはあんまり気合いの入っていない輩だったので、そのうち興味が写真に移ると、電車の写真さえ撮らなくなって、集めたコレクターグッズも他人にあげたり捨てて
しまう、というあまちゃん。どうも何か1つのことをずっと「集める」「所有する」という執着心があまりないようだ。そんなオタクの風下にもおけないタケバタではあるけれど、いまだにやっぱり列車で旅をするのは好きだったりする。

山梨に来て、車生活になって、日常的に列車に乗ることはなくなった。だが、一度出張すると、それが東京であれ、大阪であれ、列車で割と長い間旅をすることになる。移動は確かにしんどいけれど、でも車窓はやっぱり楽しい。特に、新幹線より在来線を旅する方がいい。正直新幹線は早すぎて、車窓をぼんやり眺めていても疲れてしまう。一時期毎月のように東京-大阪を往復していたが、本当にそのときに新幹線に飽きてしまった。だが、今乗っているこの快速電車や、あるいは身延線のように、のんびり走る列車は、やっぱり飽きない。

などととりとめもなく書いているうちに、電車は新大阪を過ぎ、今は淀川を渡っている。この鉄橋の音を聞くと、そろそろパソコンの電源を落とさねばらならない頃合い。そう、大阪駅に近づいた。というわけで、今日はすっかり「40分間ライブ中継」をしているうちに、ブログも書き終えてしまった。では、現場に行ってくるか。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。