台風とケアマネ

台風にはさんざんな目にあった。

実は台風が直撃してきた木曜日の夕方、関西のフィールド訪問を終え、まさに台風が近づく静岡付近を通って甲府に帰ろうとしていたのだ。で、何が甘かった、って京都駅ではその時間、新幹線も動いていたし、運休情報も夜行列車の運休情報しかなかった。なら何とか逃げ切れるだろう、という読みが甘かった。名古屋までは何事もないように進んでいた新幹線が、突如ゆっくり走り始めたのが豊橋付近。やばいかもなぁ、と思って、念のために非常用のお茶を買いに出かけたついでに、車掌室で状況を聞いてみると、「身延線は止まっていますよ」。しもうた。車掌さんが切符を切っている時に聞けば、名古屋から中央線経由で帰れたのに・・・。でも後の祭り。結局豊橋と浜松で1時間以上とまり、2時間半遅れで静岡着。あずさも止まっているので、中央線経由も絶望的だから、と静岡で一泊した。で、翌朝一番の特急列車も運休で、結局金曜日の昼にようやく甲府に帰り着く。身も心もクタクタになった。

まあでも、電車が遅れたおかげで、今回は出張の際に持ち歩く「読むべき資料」がバーベルにならずにすんだ。来週カリフォルニアに出張なので、その下準備でてんやわんやなのだが、ようやくポイントがおぼろげながら見えてきたような気がする。

今回、アメリカの精神障害者の権利擁護の現状と、脱施設政策の実際、そして今度の障害者自立支援法案にも盛り込まれている「ケアマネジメント」が実際にどう展開されているのか、を取材しに出かける。障害があっても地域で自分らしく暮らす仕掛けを作る際には、「地域移行」を政策課題として推し進めることと、地域で必要な社会資源とアクセスが出来るように支える「ケアマネジメント」、そしてそれらを法的にも実体的にも支えるための「権利擁護の仕組み」の3つがなければ、絵に描いた餅になる。日本で予定されている制度改変案を読んでいて一番疑問に思うのが、「ケアマネジメント」は推し進めても、あとの「地域移行」と「権利擁護」を重点政策課題に置いていないから、結局「ケアマネジメント」がお金をいかに効率的に使うか、という「マネジド・ケア」(総額いくら、の中で何とかやりくりしなさい)の発想に矮小化されてしまっている点だ。本来のケアマネは、スウェーデンでもアメリカでも、あくまでも「本人の地域自立生活を支える」というのが主目的であって、本人の社会参加の推し進めるための仕掛けである。決して「予算がこれしかないから、この中で社会参加を我慢しなさい」というサービス予算管理的発想ではない。このあたりのことを、アメリカの実態や、その課題も含めて調査していかないと、と思っている。

今回の自立支援法案をめぐる一連の動きを見ていて思うのは、日本では厚労省案に「対案」を提出するだけの力量を備えた組織なり集団というのが(特に精神保健の場合は)まだほとんどない、ということだ。本来の制度政策研究をする中では、役所の出してきた案を批判するのも勿論大切だが、ではその批判された問題点を克服するにはどうしたらいいのか、の対案を、制度政策レベルで構築していかないと、いつまで経っても問題は解決されない。スウェーデンでもアメリカでも、当事者や支援者、あるいは権利擁護機関などに政策分析能力のある専門家がいて、対案なり政策提言があって、それが制度に豊かに反映される形になっている。そろそろ反対要求一辺倒の方針から、提言・対案を作り、行政と当事者の双方が納得できる策を構築する作業へと方針転換することが、日本の社会政策の分野でも今、求められている。今回のアメリカ調査がそれに直接どれほど役に立つかはわからないけれど、少なくともケアマネを本当の意味で政策的に機能させるための「地域移行政策」と「権利擁護」については、しっかり調べて来ようと思っている。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。