分岐点

甲府の暑さでグッタリしていると、無意識下に押し込んだ「はず」の思わぬものが出てくる。今朝見た夢も、そして午後本を読んでいるときに急に思い出したエピソードも、どちらも僕にとってはすごくネガティブで、思い出したくもない類のものだった。向き合うのさえしんどくなるような、ちょっとキツイことを思い出していた。ただ、そのとき読んでいた本が、グログロとぐろを巻きそうになっていた僕の心を、現実に引き戻してくれた。

「自分の犯した間違いや欠点を認めるだけでもむずかしいのに、至らない自分に対する恥を克服してそこから学ぶのは、もっと難しい。だが、ハインツの例が物語るように、リーダーとなり、良い人生を生きるためには、それは欠かせないことなのだ。」(「ハーバードからの贈り物」ランダムハウス講談社、p115
http://www.randomhouse-kodansha.co.jp/catalog/2004_015.html

ハーバードビジネススクールでは、教授陣が学期の「最終授業」の最後の数分間に、自分の経験に基づいたアドバイスを若者に語りかける伝統がある。本書はその「逸話」を選りすぐった文字通りの「贈り物」なのだ。一昨日でかけたジムで手にしたビジネス雑誌で紹介されていて、早速本屋で買って、今日読んでいた。一つ一つが数分の話なので、読んでも短い。だが、内容の密度の濃さに唸ることの多い本だ。

引用したナンシー・F・ケーンの略歴もこの本で初めて知ったくらい、またハインツといえば食品会社大手、くらいの知識しかない、僕は経済には全くの門外漢である。でも、ナンシーが徹底的に調べた起業家の一人であるヘンリー・ハインツの話に引きつけながら学生に伝えようとしたメッセージは、僕にもビンビン伝わってきた。「自分の犯した間違いや欠点」「至らない自分に対する恥」を認めるだけでも嫌だし、ましてや直視して克服するのは、確かに本当に大変なエネルギーが伴う。だけれども、リーダーでなくとも、「良い人生を生きるためには、それは欠かせないことなのだ」と僕も心底思う。自分が放ったらかしにしておいた問題は、まわり回って必ず自分の元に返ってくる。ならば、その問題から逃げずに、どうしたら二度と同じ陥穽にはまらずに済むか、少しは至らない点を改善するために、今何から始めればいいか、を真面目に考えることは、すごく大切だと思う。当たり前のことが書かれていて、僕がここに書いている事も大変基本的なことなのだけれど、その基本を実践できるかどうか、がその人の分岐点なのだな、と感じている。

そういう意味で、僕は30という年齢で、また一つ、分岐点にさしかかっている。20代で繰り返して来た「間違いや欠点」「至らなさ」をどうクリアして、一つずつ、目指すモノに向けて実践を積み重ねていけるか。それが問われているな、と感じる週末であった。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。