とうとう来ました

というタイトルのメールが今朝がた、お世話になっている先生から来た。

曰く「とうとう、不幸の手紙が舞い込んできましたので、私の返事と共に、転送いたします」とのこと。何のこっちゃ、と思って読み進めると、昨年度やったあるプロジェクトの報告書の締め切りが10月になった、という事務局からの連絡であった。確かにいつかは来ると思いながら放ったらかしにしておいた催促が、思いがけず急に来ると、「不幸の手紙」そのものである。朝からケラケラ笑ってメールを読んだ後、「あと1ヶ月しかない」と笑いも消え、真顔に戻る。昨年出かけたアメリカ関連の報告書なのだが、9月頭にもう一度彼の地に出かけて色々調べても、まだよくわからん。その先生は私より遙かに造詣が深く、アメリカ研究で単著を近々出される予定なのだが、その先生をして、「アメリカ研究は、象の尻を撫ぜる思いです」と仰るのだから、僕などは「象の尻しか見えず、全体像が全くつかめない」という状態だ。

まあそう言ったところで締め切りは近づいたので、とにかく急ぎ出来る作業を始める。関連する論文・文献の追加発注やら、大学にあった関係論文をコピーしたりと、急にエンジンかかりだした。私たちは福祉を調べにいったのだが、アメリカの福祉については実は福祉学者より法学者や経済学者の方がたくさん論文をまとめている。特に社会保障との絡みや、政府間財政の問題、あるいは福祉国家論など、ネットで引っかけてみると、大国アメリカの福祉問題は、別ジャンルの研究者の切り口で、色々鮮やかな論考がある。障害者福祉の現地調査と文献研究をしていて、どうも全体像がアメリカはつかめないので、こういったマクロ的分析は、全体像を描く上で大変助かる。しかも、図書館には社会科学系の論文がたんとある。これは有り難い! なので、1時間以上にわたって、えっちらおっちら100枚以上コピーしていた。これから明日、今まで集めた論文も整理して、「日本語で読めるアメリカ福祉文献」をまず全部斜め読みしていこう。そして、それが終わったら、論点を整理して、いよいよもう一度英語と格闘しよう。そして、うまくいけば10月末には報告書に・・・と行きたいところなのだが、10月にはもう一本権利擁護関連の論文の締め切りもあり、もちろん来週から授業も再開するので・・・さてはて、どうなる事やら。そうとうヒヤヒヤものである。

そして、今日は午前、勉強会にも呼んで頂いた。火曜の晩にも別の場所で呼ばれたので、今週は二回目である。どちらも今度変わる自立支援法についてどう考えるべきか、がテーマだ。当事者、家族、支援者、行政関係者など多数お見えになられておられる。厚労省の枠組みを批判的に分析しながらも、この枠組みに飲み込まれずに、制度を使い、なければ作りながら、どう実体的に地域福祉をより豊かなものにしていけばいいのか、をお話しさせて頂く。しゃべり出したら、1時間半くらいはあっという間に過ぎてしまった。今日は手話通訳者の方も入っておられるので、ゆっくりしゃべらなければならない。普段の2分の1くらいのスピードでスタートしたのだが、あと30分を切っても話し終わらず、また最後の山場を迎えるので、ついついテンションと話すピッチがあがる。手話通訳の方も、話し終えた時にはグッタリされておられた。すいません。今度こそはゆっくり最後まで話したい、です・・・。

先週末からこの問題について、連日色々作り込んできたので、「よくわかった」「考えるきっかけになった」と終了後、お声をかけて頂けるとすごく嬉しい。僕はいつも自転車操業なので、講演の前に色々新たな情報を入れながら、練り直しながら、なのだが、この作業の中から、新たな研究課題も生まれている。そうやって雪だるま式にフィールドワークも研究も進んできた。きちっきちっと研究スタイルをもたれている先生方の前では恥ずかしいが、まあ僕にはこのスタイルしか出来ない。なので、後は雪だるまをきちんと固めて、解けないうちに適宜活字としてまとめていくしかない。アメリカ研究も、帰国後溶け始め(忘れ始め)ているので、締め切りを気になんとか固めよう、と気持ちを持ち直す。

今日はめっけもんまであった。講演先から大学への帰り道、石和の酒屋で「真澄」の立て看板を発見。奥さまの大好物なので、おっと思い中に入る。真澄はお隣長野の地酒で、すっきりした飲み口がよいのだが、あまり山梨には流通していない。で、入ったお店で真澄を物色していると、なんとあの名酒「羅生門」まで発見。和歌山の田端酒造が作っているあの名酒。大阪時代は阪急百貨店までわざわざ買いに出かけたものだ。それが山梨で買えるなんて! るんるんとしてきた。両方の会計をしながら、お店の方と話をしていると、「そう、お客さん、関西から引っ越してきたんだ。じゃあちょっと待っていてね」と裏から巨峰を持ってきてくださった。え、どうして?と尋ねると、「うちで作っているから」だって。名酒にぶどうに、大収穫の今日であった。さて、4日間も放ったらかしにしていたブログも書き終えたし、今から奥さまと名酒に舌鼓しますか。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。