タコツボを超えて

静岡への出張から帰ってきた。

今回の出張は、他学科の先生方と一緒だったので、大変おもろい二泊三日だった。

大学で研究室と授業と教授会、という3点セットしか回っていないと、同じ学科・会議の特定の先生以外とのやり取りの機会はない。また、あったとしても立ち話程度で、ゆっくりじっくりお話する機会、なんてそうない。それが今回、ご一緒させて頂いたお二方の先生と、文字通りゆっくりじっくりお話出来たのは、大きなひろいもんだった。

何がよかった、って、普段の3点セットでは、「知っている人」との会話になり、どうしても視野が狭くなりがちだ。でも、違う経験を持ち、専攻・分野も違う先生方に自分のやっている事を伝えようとすると、最近の自分が何をしているのか、の棚卸しから始めて、その先生方に届きうる抽象性と普遍性を持つ言葉で自分のタコツボを開きながら、中の具を取り出していかなければならない。そして、この取り出す作業をする中で、「あ、俺って最近こんなことやってたんだ」「こういう事で困ってんだ」とわかるだけでなく、お相手してくださる先生方の意外な方向からのボールに答えようとする中で、放っておいたら閉じがちなタコツボの中身をさらに開く必要にせまられる。これが、ジャンルの違う先生方とのおしゃべりが面白くなる契機となるんだろう。

このタコツボを開く、というのは、最近別の場でも感じている。

例えば今日はこれから大月に講演に出かける。自立支援法が通った後で地域ではどうすればいいのか、のヒントがほしい、と主催者からは言われている。別にこの問題の専門家ではなかったはずなのだが、たまたま去年の10月、グランドデザインが出た後からずっと追い続けて来たら、少し「おたく」になっていたようで、それを勉強会の場などでお伝えするうちに、なんだか「にわか専門家」になっていた。勿論制度を作るのは厚労省側だし、制度の流れもきちんと追い切れているわけではない。でも、それでも多少は「わかりやすい」とお褒めの言葉を頂くこともあるのだが、その理由は、僕がたまたま障害福祉分野のあれこれを垣間見て来たからだろう。

僕は博論までは主に精神障害者福祉を見てきた。そして博論を書いた後の二年のフリーター時代、縁あって身体・知的の脱施設に関する研究班に混ぜて頂き、身体・知的の現実に初めて触れた。去年はそれに重症心身障害の方々の地域生活支援を考える現場にも関わるようになった。で関わってみて感じるのが、「なんだ、精神と同じじゃん」と「でも全然やり方や議論内容が違うじゃん」ということであった。

僕は多分自分のめがねとして「精神障害者のノーマライゼーション」という観点のめがねを持って、知的障害者や身体障害者福祉の現実を眺め始めたのだと思う。そして見てみると、案外他障害の現場で、言われている表面的な事は違っても、事の本質は同じ、という問題に多く遭遇する。施設からの地域移行という問題は、精神病院からの退院促進と全く同じ問題性や困難性を抱えている。なんだ、同じじゃん、と思う瞬間である。

一方、いろいろな業界の方々のお話を聞くようになって、三障害、そして高齢者福祉で、同じ様な問題を扱っているのに、語り口が微妙に(時には大きく)違っているのも気になる。地域福祉、という側面で考えたら同じ問題を扱っているはずの皆さんが、現場のリアリティ、という小さな差をものすごく大きな違いのように感じて、他障害の現場に出かけると「ここは私の現場と違う」と差異を強調されることがある。でも、地域福祉に関係ない普通の市民にとって、三障害の違いなんてわかんないし、高齢者と障害者の福祉の何が違うか、にも興味ない方々がおおいのだ。ならば、三障害と高齢がそれぞれ自身の差異にこだわってタコツボ化していて、どうして「地域に開く」ということが出来よう。こんなことに、僕もフリーター時代に少しずつ気づきはじめた。そこで、ちょうど三障害が「法律的」には統合される時期だし、もっというと将来高齢者の法律に吸収合併される可能性が高い時期だから、「それを利用して皆さんもタコツボを超えて、地域を豊かにする応援団を増やさなければ」と今日も朝からヤイヤイ言ってくるつもり、である。

タコツボを超えるのは、自分を、ダメな部分や至らない部分も含めて客観視することであり、ハッキリ言って楽じゃない。でも、そうやって相対的に眺め、他の人からの視点やアドバイスを入れる中で、自身が育んできた中身、がきっと豊かになっていくはずだ。タコツボ内で水を腐らせない為にも、たまには外ににゅるにゅるっと出て行くのもよいなぁ、と思った週末であった。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。