初秋のオランダより

 

今、現地時間の木曜早朝。
初めてホテルでぐっすり寝たので、気持ちよく目覚める。とにかくここ数日、めちゃくちゃハードなスケジュールだった。

フランクフルトで乗り換え、アムステルダムにたどり着いたのが、現地時間の午後6時過ぎ。時差は日本と7時間だから、既に日本では深夜を迎えている時刻だ。日曜の晩は、日付変更線をすぎるころまで準備をしていて、その後朝4時!のバスに乗るために、3時起き。バスの中でも、飛行機でも仮眠をとったのだが、一方でスウェーデンでインタビューをする際の質問状もできてない。なので、ルフトハンザで出された美味しいドイツビールもほどほどに、11時間のフライトの後半5時間ほどは、結構まじめに「予習」の時間に当ててしまった。おかげさまで、ある程度英語も書けたのだが、体は結構フラフラ。そんな中で、オランダに上陸したのである。

で、スキポール空港まで迎えにきてくださったロール氏と久しぶりの再会。今日はホテルまで送ってもらったら、すぐに眠り込もうと思っていたのに、彼の口から出たのは、「ホテルに送る前に、ちょうどコーチングに出かけるから、着いてこないか?」という提案。そう、今回の調査の最大の目的は、障害者のSelf Advocacyをコーチングしている、というオランダやスウェーデンの支援者達にくっついて、いったいそれが何を意味し、どんな権利擁護や本人活動の支援が行われているのか、をじっくりみてみよう、というのが最大の調査目的である。なので、こうやって初日から、その現場への同行のお誘いは、願ってもないチャンス。ちょっとくたびれていても、僕は助手席に乗っていればいいだけ、なので、喜んで同行する。久しぶりに使う英語で、かつ眠い頭なので、なかなか言語障害が激しいが、そうも言ってはいられない。とにかくしゃべりまくりながら、車で走ること1時間半。途中で彼の助手を務めるヤニカも拾って、現場に到着。

現場であるグループホームでは、ロール達の到着を参加者が通りに出て待っていた。4人の参加者と私たちは、参加者の一人の居室に集まる。夕方の涼しい風が、牧草と牛のかぐわしい空気をはこんでくる。酪農王国にやってきたことを鼻で感じながら、目の前で行われているオランダ語でのやりとりを、ぼんやりと眺めている。知的障害を持つ皆さんが、思い思いに色々話を進めていく。コーチ役のロール氏や、軽い知的障害を持ちながらロールの仕事の助手として働いているヤニカは、聞き役であり、餅つきの返し手のように、その場の話が引き立つような、ガイド役をしている印象。中には話をしていて感極まって泣き出す人が出てきたら。ヤニカが優しく外に連れ出して、お庭で落ち着くまで一緒にいたり、といろんな光景が展開していく。昼間はみんな仕事に出かけているから、こういう話は夕方にすることが多い、とロールから行きの車で聞かされていたが、実際にこの目で見ると、なるほど、障害を持つ人々のミニ当事者会の司会進行役をしているのかな、という感じであった。

夜7時から8時半まで続いたセッションの後、そこから1時間半書けて北東部のWolvegaという町まで車でぶっ飛ばす。オランダは一番高い山でも標高300メートル、全体がほとんどゼロメートル地帯なので、一般道やフリーウェイも100キロ以上でみんな走っている。こちらは徹夜状態なのだが、目の前で先ほど行われた光景についていろんな質問がわき出して、いっぱい質問を彼にぶつけていた。その中で、印象的だったのは、「先ほどの参加者達は、最初全然話を自分からしなかった」とのこと。ヨーロッパの当事者達は、自己主張の国だから最初から話をガンガンしていたのか、勝手に思っていた僕にとっては、意外だった。「今は8回のセッションの最終局面だが、最初は何をしゃべっていいのかみんなわからず、とまどっていた」という。それが、ロールやヤニカの励ましの中で、自分達の正直な思いや願い、不安やうれしさなど、いろんなことを率直に話してもよい場なんだ、と気づくなかで、みんなが積極的に自分から話をしてくるようになった、という。初日からコーチングの実際を垣間見て、眠さより興味深さが打ち勝つ体験だった。

で、ホテルに着いたら、現地でお世話になる支援者のリッチェもバーで待ってくれていた。ということは、ここから再会の飲み会。彼ら彼女らが日本にきたときも、よく飲む面々だなぁ、と思っていたが、彼らの本拠地では勢いもます。こっちも濃厚な生ビールを注がれると、気分はなんだか向かい酒状態。真夜中でくらくらしながら、調査初日の濃い夜はどっぷりとくれていくのであった。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。