ひりひりした過去

 

昨日は危うく風邪を引きそうだった。

朝から、ここ最近で一番「何もしたくない」「家を出たくない」「だるい」と駄々っ子、というか気力が萎えていた。でも、奥さまもお送りしなければならないので、とにかく家を出て車を走らせ大学に行く。今度はとたんに頭痛が始まる。だいたい普段あんましストレスのない僕は、頭痛なんて滅多に遭遇しない。なのに、昨日は激しい二日酔いでもないのに頭痛が午後になってもとれない。「これは風邪の初期症状だなぁ」と気づき、3・4年のゼミが終わったら、今日明日の資料類を鞄に詰め込み、足早に大学を去る。そう、今日は大阪出張明日は東京で学会、という、これまたハードなスケジュールなのだ。ここで風邪を引くと、後々総崩れになってしまう。なので、帰ってとにかく寝る。

一眠りして頭痛がとれ、腰湯して汗を大量にかき、ニンニクたっぷりいれたお好み焼きとロゼで元気づけ、早めに床に入る。汗をびっしょりかいて夜中にTシャツを3回着替えて、今朝になったらだいぶ楽になった。ああ、よかった、よかった。

で、昨日腰湯中にも汗をいっぱいかいたのだが、汗をかくためにお風呂の共にしてた本の中で、思わず昔のある時期を思い出してしまったので、その一節を少し引用してみる。

「敵を生活の中心におくとどういうことになるだろうか。ほとんどの人はそんなことは考えられないと思うだろうし、意識的にすることもまた、ないだろう。にもかかわらず、敵を生活の中心におくことは、よくあることなのだ。特に争っている相手と頻繁に接する場合は、そうなることが多い。自分の生活に大きな影響を及ぼす立場にいる人に不公平に扱われたと感じたとき、気が気でなくなり、その人を自分の生活の中心においてしまうことはありがちである。敵を生活の中心におく人は、自分の生活を主体的に送るより、相手の行動や態度に対して反対依存的に反応しているだけである。」(「7つの習慣」スティーブン・コヴィー著、キングベアー出版 p156

「反対依存的」 なんと端的な言葉で、本質をついているのだろう。そう、僕もこの「反対依存的」な時期があったのだ。その時期、僕はある方に不義理をしてしまい、その結果、その方から徹底的に無視をされる、という事態に陥った。狭い世界でそういう事態に遭遇すると、もう自分の中で全くどうしてよいのか分からず大混乱に陥り、その後1年間くらいの間、その方との関係のことで「気が気でなくなり、その人を自分の生活の中心に」結果的においていた。その人の車を見ただけで、その現場から逃げ帰ることも、少なからずあった。当時、ほとんどろくな仕事が出来なかったのは、まさに自分が全く主体的ではなく、「反対依存的」な生活を送っていたからだった。

それについて、他責的な文法で、簡単に言えばその相手が悪い、という文法で、当時は切り抜けよう、としていたが、そういう中途半端な対処法では切り抜けられないことも、同書の中では続けて書いている。

「敵中心の人は、一切内的な安定性を持っていない。自尊心は不安定であり、他人の気持ちや行動次第で消えてしまうものである。方向性は他人の顔色をうかがって決めることになるし、知恵は社会の鏡や敵中心の被害妄想によって制限されている。こうした人には力はなく、まるで操り人形のように相手に振り回されているだけなのである。」(同上,p157)

当時の僕は、全くもって彼の叙述そのままの状態だった。「操り人形」という形容詞がピッタリの、フラフラ、グダグダ、うろうろ、な日々だった。被害妄想はどんどん膨らみ、常に顔色をうかがう、という日々に、自尊心もクタクタになり、知恵は吹っ飛んでいた。そういう意味で、実に消耗・焦燥感の大きい日々だった。

だが、今から思うと、そこから実に多くのことを学んだのも、また事実である。反対依存的な生活からは何も産み出さないこと、自分が主体的に産み出したもの以外には何もあてにならないこと、を、心の痛みと共に気づかされた。思い上がって「増長」していた20代に、ハンマーで頭をかち割られるような痛みを経験することによって、少しは現実世界の厳しさや、その中での間合いの取り方を学んだように思う。そういう意味では、あの方は真の意味での「教師」だったのかな、と、今ではようやく思えるようになってきた。自分の実力が伴っていない段階で、他人の傘の中で、他人の思惑を十分に忖度せず動くことの危険性を、身をもって伝えてくださったのだから。

とまあ、ひりひりした過去の話は、書き出したらきりがない。あ、7時20分には出なければならないので、そろそろ支度しなくちゃ。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。