大きな地図の中での位置づけ

 

今日から大学では後期の授業がスタートなので、昨日は大学で午後から授業の準備。火曜は二コマの講義で、昨年一応ある程度のスタイルは作ったのだが、今年度はもう少し体系化しようと練り込んでいく。後期は特にゲストの方にも来て頂くので、その流れを崩さないようにしながら、重点的に伝えたいこととの前後関係も用い、学生さんにも理解しやすく興味を持ちそうな中身に「仕込む」ことが、この練り込み作業、つまりは講義の流れを構築する作業では大切だ。これも、3年目になって、ようやくわかってきたこと。お陰で、だいぶこの練り込みが早く、充実したものになってきたが、それと反比例して、2年前より遙かに仕事が増えている。世の中、そううまくはいかないものである。

さて、夏休み最後は大阪出張をしていたのだが、日曜日の帰りに書いた文章を、以下に貼り付けておこう。

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新大阪駅構内の喫茶店で、たばこの煙に渋々むせびながら、レッツノート君に向かっている。二日酔いなのか、旅の疲れなのか、その両方が重なってか、結構ぐったりしている。とにかく一息つきたかったので、煙まみれもしゃあないか、と味気ないコーヒーをすすっている。ただ、それよりも、今日ぐったりしているのは暑気あたりかもしれない。

なんせ大阪は暑い。季節はずれの太平洋高気圧の張り出しもあって、とんでもなくじっとり暑いのだ。そんな中、今日は朝から大阪市大に出かけての学会発表。西駒郷から地域移行をされた方々の「交流会」という場面を通じた権利擁護の問題について発表したのだが、タイトルや伝え方が下手くそだったのか、あんまり聞き手はたくさん集まらない。関わっている自分自身としては、すごく大切な課題であり、かつ今後の各地での地域移行政策にも大きく関わる話なのだが、その「大きな地図の中での位置づけ」をA4一枚の発表要旨や15分の発表時間にうまく落とし込めなかった為、少数の方々にしか関心を惹きつけなかったのだろう。

そうやってみてみると、私だけでなく、他の発表者の発表も、この「大きな地図の中での位置づけ」が出来ていなくて、あるいはそもそも意図していなくて!?、その大切さが伝わらない、というのもいくつも見かけた。勿論世の中には業績を上げるための研究、というのもあるかもしれないが、一方で、伝えたいことがあって、おもろいと感じることがあって、研究し、発表している方が大半である(と信じている、のだが、そうでないという人も結構いる)。ならば、少なくともご当人にとっては、すごく大切で、おもしろく、だから関わり続け、それに基づいた発表のはずだ。なのに、なぜ、と思うほど、発表場面でつまらなくなったり、何が大切なのかが伝わらないこともある。(もちろん、僕だってそう思われている可能性が充分にある)

その背景には、やはりポジショニングの不全、というか、どういう文脈のなかで、何が論点になっていて、その論点が全体像とどうリンクしているのか、の自覚や枠取りに不足しているのだ。何せ学会発表するくらいなのだから、その発表内容については、ご当人が一番よく知っている(でなきゃ、something newとは言えない)。だが、ご本人が知っていて、おもろいと感じていることを、それをよく知らない人に、わかるような言葉遣いや論理構築で、全体像との位置関係も明示しながら説得的に示すことが出来ていない、から、おもしろくないのだ。だから、午後からおもろそうな発表も一、二、あったが、身体がだるい事も重なって、こうして早引きしてしまう。(結局のところ、これはサボりの言い訳?)

ただ、学会以外にも今回はもう一つ、ミッションがあった。それは、科研で調査をしているある福祉現場での中間発表会。この週末に発表する機会が重なったので、どちらも準備が大変だった。特に金曜の現場での中間発表会は、調査データに基づいて見えてきた事実を元に、具体的にその現場・組織を変えるための提案までしてしまう、という、何だか研究の領域を逸脱している!?かのような、アクション・リサーチなので、これまた大変である。ただ、僕自身、現場をよりよいものに変えるための研究でなければ興味がわかない、という変な癖を持っているので、仕方ない。その通所施設の全職員への二回目のインタビューと、新たに入れた職員へのインタビュー、をこの春と夏に行って、そこから見えてきた課題を整理し、具体的な改善提案に持ち込んでいった。その時に役だったのは、研究者の本より、むしろコンサルタントの本だったのである。

ただその前にコンサルティングのことについて、僕自身も含めて偏見が多いので、ちょっと書いておく。経営コンサルタントは勿論福祉分野にも入っている。例えば障害者自立支援法に謳われた障害福祉計画だけでなく、多くの福祉計画策定が90年代以降言われ、市町村職員は大きく困惑し、その労力の肩代わりとしてコンサルタント会社に「丸投げ」しているケースも散見される。そして、コンサル会社の中には、もちろん良質な調査と分析を行う会社がある一方、儲けを重視するあまり、同じフォーマットで同じ枠組みでの調査・分析で、結果として誰も見てくれない報告、というものもある。

これは決してコンサル会社だけが悪いのでなく、委託費が極めて低かったり、依頼者側に明確な指示(この範囲でお願いします)がなく「丸投げ」している、あるいは市町村が言う(国が指示する)納期がめちゃくちゃタイトなため、そうしか出来なかった、など、様々な要因が複合している。そして、そういう調査であれば、「何が問題なのか」は示せても、「あるべき姿」との乖離がきちんと示せていなくて、「そりゃそういう意見もあるだろうけど、だからどうするの?」が抜けているものも少なくないのだ。

それに対して、この夏、いくつか当たりのコンサルタントの本を読み進めていってわかってきたのは、優秀なコンサルタントは、そういう現状分析だけに終始してはいない、ということである。掘り下げるなかで、現場との対話を通じてその企業の構造的問題を探すだけでなく、その企業がこれまでどういうミッションを持ち、今どこで躓いていて、将来に向けてどういう「あるべき姿」を描くのがより良いのか、を対象企業と一緒に模索する。その模索を通じて、コンサルに委託する程に混迷・低迷している当該企業の「あるべき姿」を捉え直し、その捉え直された「あるべき姿」と現実との乖離を、問題として抽出し、対策を立てているのだ。そう、コンサルティングの本領は、問題分析もそうだけど、むしろ過去の歴史に基づきながら当該企業がこれからの「あるべき姿」を捉えなす、その部分の「問題発見」の部分にある、と、とある本を読みながら気づいたのである。問題解決に向けたノウハウ本はあまたあるが、適切な「問題発見」が出来ない限り、あまたの方法論は活かされない。そういう意味で、ほんまもんのコンサルは、この部分を深く掘り下げるのだ、とよくわかる一冊だった。(もちろん、そこまでしてくれるコンサルは相当の「代金」をおとりになるのだけれど

そういう風に考えると、研究にもダイレクトに当てはまってくる。現状が問題です、という報告は、今日の学会発表を聞いていても山ほどある。だが、なにが「あるべき姿」との落差として問題か、という枠組み、「大きな地図の中での位置づけ」が見えないから、面白くないのだ。逆に言うと、これが出来れば、説得力があるし、何より現場の皆さんに納得してもらえる話になる。今日の学会発表はうまくいかなかったかもしれないが、少なくとも金曜の現場での発表は、この部分を注意して、支援者の語りの中から、この現場が今考えている「あるべき姿」の拡大の模様を描き出し、その拡大された「あるべき姿」と以前のままの職員組織・運営システムという現状との「問題点」を整理して、「あるべき姿」を変えたくないのなら、職員組織・運営システムを変えないと、ミッションは達成できない、という整理をさせて頂いた。すると、お説教ではなく、一応evidence basedなので、現場の皆さんも、前回の整理より耳を傾けてくださる。この部分で、多少は今回成功したかもしれない。

そうやって成功に気をよくしてしまい、金曜は現場で、土曜は友人と、連日深酒をしてしまい、酩酊気味でホテル京阪京橋まで舞い戻った。最近ここが大阪出張の定宿になっているのは、もちろん京橋駅からすぐ、というアクセスの良さもあるが、ホテルの下にあるフィットネスクラブの利用券とセットプランがあるから。今日は朝一から学会発表で無理だったので、二回分(二泊分)をこなすために、金曜は早めに大阪入りし、現場に行く前に汗を流し、土曜は学会に行く前に脂を出した。だが、昨日はグルメな旧友に美味しい焼き肉屋に連れて行ってもらったので、その努力は帳消し、というか、午後3時過ぎでもまだ二日酔いが残っているほど飲み過ぎたので、むしろ帳簿はマイナスだ。明日のミッションには、明後日から大学なので授業準備も泣きながらやる一方、ちゃんとジムにもいかねば、と決意表明をしたためてみた。

と、途中「ひかり」車内に場を移して書き続けたが、やはりちょっと乗り物酔いになりそう。列車は京都に着き、ここからぶっ飛ばし始めるので、そろそろ今日はこの辺で。気持ちわるー。

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後日談。単なる二日酔い、だけでなく、暑気あたりと夏バテのトリプルパンチだったようです。でも、身体が軽くなって運動もしているからか、何とか半日の休養で乗り切れました。今日から大学。でも、夏休みの宿題はまだ残っているし。小学生から変わらないなぁ。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。