議会と福祉

 

5月11日のブログで、大阪の権利擁護に関する府単独の制度が財政再建を理由に廃止になりかけている事を書いた。その最後に、こんな内容で締めくくった。

「では、どうすればいいのか? そのヒントを今日の記念講演の話し手であった野沢さん(毎日新聞)が指し示してくださった。これは非常に示唆に富むのだが・・・そろそろおねむなので、続きはまたあとで。」

で、忘れてしまわないうちに、その示唆に富む話の一つを。

毎日新聞の野沢さんと言えば、「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」を作った立役者のお一人。それに至る波瀾万丈のストーリーは「条例のある街」という魅力的な本の中にぎゅっと詰まっている。詳しくはこの本かあるいはDINFのHPをご一読頂くとして、野沢さんの話を伺っていると、千葉の話と大阪の話が実は構造的に似ているような気がしていた。

千葉の場合、この条例を作ろうとする「知事」と、知事に反対して条例を潰そうとする「議会」、そしてこの条例を何とか通したい「障害者団体」、という構図があった。で、大阪の場合、福祉関連予算をカットしたい「知事」と、その問題に当初はあまり関心のなかった「議会」、そしてこの予算削減を阻止したい「障害者団体」。「知事」のベクトルが逆向きである、という点や、「議会」のコミットメントの違いがあるが、共に都道府県単独の事業(条例なり制度)を創設・廃止しようという局面で、首長の裁量権が問われている、ということには変わりない。そんな感じがしていたので、質疑応答の際、「この構造的な類似点に関連して、大阪はどうしたらいいか、について千葉の取り組みからアドバイスがありますか?」と伺ってみた。すると、次のようなアドバイスが寄せられた。

「千葉では、議会中に議員宛に『やっぱり必要、みんなで作ろう!』という名のニュースレターを作って、頻繁に情報提供をしていた(このニュースレターは大熊由紀子さんのHPで全部読めます)。また県議会議員への戸別訪問だけでなく、県議に影響のある市町村議員へも、協力要請に出かけた。これまで全く議員に接したことのない障害児の父母が、とにかく条例を通したい一心で、全く縁のなかった議員さんに話しかけにいった。これが、県議会での反対の空気を変える大きな原動力になった。だから、大阪でも、府議会議員の全会派、そして市町村議会議員などに、その制度がなぜ重要か、なぜ存続する必要があるか、伝える必要がある。」

このお話は、実に意義深いものであった。障害者福祉に引きつけると、長野の田中県政時代にはじまった県立西駒郷からの地域移行や宮城の浅野県政時代に謳われた「施設解体宣言」など、首長はよくスポットライトがあたるが、その一方、議会議員に光はなかなか当たりにくいし、注目もされにくい。しかし、確かに中高の教科書にも書いてあるように、首長の仕事をチェックするのも、地方議会の大きな役割なのである。知事の政策が障害者福祉に逆機能を示し始めたら、それをチェックし、順機能するように促すのも議会の役割である。実際、大阪でも障害者団体の様々な取り組みも功を奏し、議員レベルでのこの問題に関する関心が増え始めているようだ。地方議会が人気の高い橋下知事にどのようなアプローチをしようとしているのか、実質的なアクションに至れるのか、今後が多いに注目される。

ところで、この議会と福祉に関しては、実は私も少しだけ今後コミットする予定である。実はうちの大学と山梨県の昭和町議会が木曜日、政策提携に調印をした。議会側には議員のスキルアップやコンサルティングを、学生側は「学生議会」などを通じて議会運営を実地で学ぶ、というwin-winの連携である。大学側の提携元である「山梨学院大学ローカル・ガバナンス研究センター」にちょこっと関わりがあり、今年の二年生ゼミの皆さんには昭和町の福祉について足で稼いで調べてもらい、この11月の「学生議会」で質問してもらう予定。議会や議員と首長や町の政策の関わりを、生身で体験してもらおう、と思っている。この際、千葉や大阪の、「首長」と「議会」と「課題を抱えた市民」という構造から、私たちが学べることは少なくない。今度のゼミで、その話もしてみることにしよう。

*追伸:以前このブログでも呼びかけた大阪府の「精神障がい者権利擁護システム事業(精神医療オンブズマン制度)」の廃止案撤回を求める署名が合計1万7022名分集まり、23日、集約団体から大阪府に提出されました。このブログを通じてご協力下さった方がいらしたら、感謝と御礼を申し上げます。
*追伸その2:いつもお世話になっているこのブログの管理人mamnag氏のお陰で、コメント欄が復活しました。スパムコメントが滅茶苦茶あったので、一時全面的にストップしていたのですが、そのデータをサーバーから消して下さったので、何とか復活です。こちらも以後、ごひいきに。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。