トップダウンとボトムアップ

 

昨年も、今年も、石和の花火大会の「直後」に現地を通過する。昨年は怒り心頭の渋滞に巻き込まれたが、今年は「かいじ」の人。今回は福島からの帰り、である。

全国の保健・医療分野で働く公務員の労働組合の大会に呼ばれ、福島の飯坂温泉でお話させて頂く。公務員の大切な仕事は、事業実施過程だけではなく、政策形成過程もある。事業実施後の評価がきちんと出来、問題が発見出来れば、それは新たな政策形成に繋がる。でも、現場ではなかなか政策形成過程は「後回し」になり、ついつい目の前の事業の計画と実施で過ぎてしまう。それでは、機関委任事務的な仕事であり、本来の地方自治体の持つポテンシャルを使い切っていないですよね、という話をしていく。これは、どの分野でも言われているが、事に障害者福祉の分野でも、如実に表れている。

例えば、障害者福祉計画、というものがある。これは自立支援法で策定が義務づけられているものであり、私の研究室には山梨県内全ての自治体の同計画がある。これを見ていて、本当に愕然とするのが、県内の殆どの自治体がコンサルに作成を丸投げしていた、という実態である。見れば分かる。標記や解説の仕方、住民アンケートのフォーマットやその分析方法が「ほぼ一緒」なのである。違うのは、表紙と、データの母数(そりゃ、市町村が違うのだから、そうでないとマズイ)、あとは施策推進協議会のメンバー名や、若干の施策内容の違いのみ。コンサル側も、いくつかの福祉計画をパッケージで依頼されたら、力量を入れて作り込むことなんて出来ない。そんな背景もあり、金太郎飴のような福祉計画が並んでいるのである。

そこで、今、山梨でも三重でも力を入れているのが、福祉計画や自治体の施策を「金太郎飴」にしない為の、その地域の実情に合った内容を作り込むための、自治体職員や相談支援従事者に向けての研修である。こんな風に書くとモノモノしいが、実際はそんなことはない。個別支援の現場で出てくる課題、それは「実施された事業に関する当事者側からの事業評価」そのものなのだ。そういう事業評価(やその素材)を無視・蓋をして、なかった事にするのか。あるいは、それを元に自治体の障害者計画や施策の改善に繋げるのか。この場面で、地域自立支援協議会などをどう活用出来るか、が問われているのである。

もちろん、自立支援協議会が薔薇色ではなく、色々難点がある、ということは、みたさんの指摘などを見てもよくわかる。それは、私自身も感じている。だが、別項でとみたさんも書いているが、文句や批判を言っていてもしょうがないから、目の前の法律の中で、最大限に活用出来る部分は活用してやっていくしかないのである。

山梨でも去る8月10日、初めて県と地域自立支援協議会の「合同協議会」を開催した。どこも「他の地域では何をやっているのか?」「県はどうしているのか?」を聞かれるので、では県内で情報交換をしましょう、という主旨で開催した。全ての協議会の報告と、その後分野ごとに別れての意見交換会、という形式だったが、参加者からは概ね好評だった。こういう地域での取り組みは、どこでも試行錯誤の中でやり方を模索しており、よその地域の実践から学ぶ、という場面の提供が求められていたのだ。開催後のアンケートには、年に二回程度の開催を求める声が多く、またもっと部会ごとの突っ込んだ議論を求める声も少なくなかった。つまり、適切な場や方法論を提供したら、ちゃんと地域課題について議論し、改善するための方策を考えたい、と思う現場は少なくないのだ。こういう場作りを、自立支援協議会という枠組みを活用しながら、どれだけ作り込んでいけるか、が問われている。

とはいえ、障害者自立支援法にも限界があるのも、また事実。こないだご紹介させて頂いた、私も編者の一員となって作った『障害者総合福祉サービス法の展望』(ミネルヴァ書房)も、その限界を超えるための提言を含んだ書籍になっている。ちょうどこの本に関連して、自らも障害者家族の立場から、千葉県の差別禁止条例作りにもコミットしてこらられた毎日新聞の野沢さんが、こないだの社説で次のように書いておられた。

「ただ、民主党内の優先順位はどうだろう。看板政策の子ども手当、農家への戸別所得補償などに大きな財源を充てる一方、障がい者総合福祉法には400億円とされているが、それで足りるのか、地方分権・補助金削減方針とは整合するのか。政府批判の声を得て「自立支援法廃止」の旗を立てたものの、中途半端に終われば、せっかく地域や会社で存在感を発揮し始めた障害者が再び施設に囲い込まれることになりかねない。」
衆院選 障害者施策 民主は本気なのか  毎日新聞 2009年8月20

政権与党がどこになるのか、ということではなく、本当に障害者のためになる法律や制度が作られるか、が争点になって欲しい。後一週間の選挙戦で『お祭りは終わり』ではない。むしろその後、どのような政策が展開されていくのか。「また制度が変わる」と現場では否定的なため息も聞こえるが、それを希望の光にどう変えられるのか。法律そのもの、も大切だが、運用面でのパワーアップが求められる。それは、自治体の担当者増・専門職配置とか、相談支援現場の力量アップといったソフト面、自立支援協議会と障害者計画の関連づけやその財源的保障といった政策面、など色々論点はある。分かっていることは、銭の話は露骨だけれど、野沢さんの言うように「400億円」では足りないのである。

以前のこのブログでご紹介した慶応大学の権丈先生は「足りないのはアイデアではなく財源である」と仰っておられたが、アイデアも財源も不足している障害者福祉領域で、何をどう変えるべきか、は国政レベルでも問われている。一方、僕に出来ることは、山梨や三重で、コツコツとボトムアップ型の研修なり仕組み作りなりし続けること。このささやかな努力と、トップダウン的変更が、いつしかくっつけばいいのだけれど

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。