香港旅日記(その1?)

 

2月末から3月初旬にかけての6日間、スイッチを切ってきた。向かった先は香港。春休みを頂いて、パソコンは持参せず、とにかく現地でボンヤリしよう、と日本を脱出した。

日本に出る直前は、いっつも〆切前の仕事で追いまくられて、身も心もボロボロになりやすい。今回もご多分にもれず、前回のブログにも書いたように、3月のNPO学会のフルペーパーに、8月の海外学会(EASP)のアブストラクト作り、の二つの〆切を前に、必死になっていた。それに加えて腹風邪を引いたり、体調は優れなかったのだが、とにかく25日のキャセイパシフィック航空に何とか乗り込む。今回はいつもと違って午後遅い便にしたので、朝4時とか5時のバスに乗らなくて良かったのが、不幸中の幸い。飛行機でアルコールもパスし、本にも集中出来ず、ダラダラ寝たり本を読んでいる内に、香港に到着。だが、そんな出立前のトホホ、な顛末も、今グーグルカレンダーを見ながら辛うじて思い出すくらい、現地でのステイは充実していたのである。

何がよかったって、まず、エイジアンモンスーンの気候で、最高気温が28度、最低でも22度と半袖。ただし、湿度も9割越えと蒸す為、室内はとんでもなくクーラーが効いていて、ジャンパーは欠かせない。しかし、街歩きの最中には、ポロシャツでちょうど良い、そんな気候に気持ちがウキウキする。当然、日本帰国後の寒さは、身に応えるのだ(今日だって、セーターですもんね)。気温に左右されやすいなんて、幼稚ではあるが、しかしファンダメンタルなものでもある。

次に、香港旅行の定番、お買い物と食べ歩き。普通は3泊4日でも飽きる、と昨冬先に訪れたマオ嬢は言っていたが、僕たち夫婦にはさにあらず。正直、5泊6日でも足りない、というほど、楽しかった。我々はチムサーチョイの地下鉄駅から徒歩5分、という抜群のロケーションのホテルに滞在したのだが、香港は地下鉄やバスを使えば、大体行きたいところにいけるし、かつタクシーも安い。非常にコンパクトな(=というか狭い)街故に、高層マンションがニョキニョキ立ち並んでいる土地柄。そういうところで、アーケードを眺めながら掘り出し物を探し歩くのが楽しい(麻のジャケットをゲットできたのはうれしかった)。そして、休憩先で食べたケーキやエッグタルトなんかも、すこぶる美味しい。かなり毎日歩き回ったのだが、一方で飲茶も餃子も海鮮料理も四川料理も、どれもパクパク美味。それだけなら豚になってしまうので、今回はちゃんと日本からコンパクトな体重計も持参! 朝食を抜くか、果物だけにとどめ、レコーディングダイエットもまめに続けた結果、ちゃんと76キロ台をキープし続けられた。アブナイ、あぶない。

いつのころからだろうか? スウェーデンに滞在することが決まった時以来だから、もうかれこれ7,8年になるだろうか。我が家の定番として、旅に出る前に、現地のガイドブックやその土地にまつわるエッセイなどを5,6冊以上、買い込むことにしている。その理由の一つとして、行く前から旅の気分を高めていく、というのもあるのだが、現地で改めて感じたのは、「複数の視点」の大切さである。

一般のガイドブックに載っているお店、というのは、定番のものもあれば、その店から何らかの見返りがあって掲載されているものもある。しかも、取材は複数のソースに基づいているのは良いのだけれど、何というかオリジナリティがあまり無い。ま、逆に言えばガイドブックには「ベタ」が求められ、多くの読者にとって、逸脱しない事が安心感になっているかもしれない。確かにそうなのだが、パックツアーでもなく、「他の人がしているから○○したい」があまりない我が家のニーズと、定番ガイドブックはどうもずれる。そんなとき、オルタナティブな視点を提供してくれるのが、著者名のクレジットがしっかりしている単行本だ。今回、予習本としては『転がる香港に苔は生えない』(星野博美著、文春文庫)が、現地では『お値打ち香港・マカオ改訂版』(山下マヌー著、メディアファクトリー)が、そのお供にぴったりだった。

星野さんの本では、広東語を主に話すローカルな香港人たちの人生の断片を垣間見ることができる。分厚い本だけれど、第32回大宅壮一ノンフィクション賞受賞もうなづける、香港人の縮図が楽しめる一冊。実際に現地で、中国からの元密航者と思しき貧しき労働者の横を、バブル景気で大金持ちになってチムサーチョイのブランドモールで買いまくる中国からの旅行者軍団が通り過ぎていく風景を目にした折に、ふと星野さんの本に出てくる彼・彼女の光景を思い出すのであった。目の前に単に見えている景色に、どういう意味合いがあるのか、を解釈する上で、彼女のルポは格好の補助線となる、濃厚な一冊だった。

それに対比して、マヌー氏の本はタイトルからもわかるようにガイドブック。ただ、大手のガイドブックと違い、自分の目で確かめて納得した内容だけを厳選した、と筆者が言うように、かなりその信頼性はある。実際、前回のバリ旅行でその視点に共感した我々は、今回彼のお勧めのエアラインをネット予約し、ホテルに泊まり、食事も食べたが、どれも確かによかった。自分の視点や感性と似た部分(同じ方向性)を持つ著者の枠組みにお世話になってみるのも悪くない、と思わせる一冊だった。香港で滞在中、ずっとワクワクさを持続できた理由のひとつに、この本との出会いはあるかもしれない。1冊の本を鵜呑みにするのではなく、複数のガイドブックを重ね合わせる中で、一番安心してお供にできたのがマヌー本であった。

で、実はそんなことは入り口で、香港に脱出したからこそ!?、現地でいろいろ考えたこと・気づいたことはもっとあったのだが、それはまた項を改めて。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。