楽し恐ろし「社会見学」

 

昨日の夜は、楽しい社会見学半分、恐ろしい経験半分、であった。次の番組に出ることになってしまったから、がその理由。いちおう今晩放映予定、であります。山梨ローカルですが

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NHK総合テレビ「金曜山梨」
シリーズ地域再生 働きたいをどう支えるか ~障害者雇用の今~
総合 5/14(金) 後8:00~8:33

山梨県の抱える課題と解決の糸口を探る、「シリーズ・地域再生」。今回のテーマは、経済不況の中、厳しさを増す障害者の就労について。政権交代により大きな転換期を迎えた障害者施策。3年後の新制度発足に向けて、今年1月から議論も始まっている。番組では、現行制度「就労支援」の課題を探り、障害者自身が多様な働き方を模索する事例などを紹介しながら、新制度に向けて提言する。
http://www.nhk.or.jp/kofu/kinyama/index.html
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普通こういう番組って、研究室に取材にこられて、ペラペラ長くしゃべって、30秒か1分くらいに縮めて「識者コメント」として撮られるもんだ、と思っていた。だが、聞いてみるとクローズアップ現代とか福祉ネットワークのように、スタジオでアナウンサーの方と話をする、ということらしい。一応障害者福祉の業界に身を置いているけど、厳密な意味での障害者雇用のスペシャリストではない。それなら、県庁の障害者雇用のプロフェッショナルのfukunekoさんとか、就労・生活支援センターのMさんとか、もっと適任者は一杯居ますよ、と抵抗したのだが、なんとその県庁某氏から「是非に」というご指名だそうな。専門的な話をする教育テレビの福祉ネットワークと違い、総合テレビなので、広く県民に障害者の現状を知ってもらう入り口として「はたらく」を取り上げたい、とディレクターのKさんに言われると、何となくそうかな、と思ってしまう。しかも、そのKさんは大学時代が京都だったようで、恵文社書店一乗寺店、というコアな本屋トークで盛り上がってしまい、引くに引けなくなってしまった。あと、社会見学もしたかったし、という下心もあって、引き受けてしまったのだ。

実は小学生の頃の「将来の憧れの職業」はテレビキャスターだった。当時、ニュースステーションが始まったばかりの頃。久米宏が、朝日新聞の小林さんと議論しながら世相を斬っていくのが、子供心に凄く格好良かった。あと、NHKスペシャルやTBSの報道特集なんかも大のお気に入りで、捕鯨問題はどうだ、政界再編はこうだ、なんて親相手にテレビの受け売りをしゃべっている、ませたガキだった。あと、これもどうでもいい話なのだが、小学校の頃は放送部に所属して、給食の時間の校内放送のディレクターもどきをして楽しんでいた。ついでに言うと、京都市小学校放送アナウンスコンクール、的なもので優勝してしまった事もある。運動音痴な僕にとって、多分人生において何かで優勝した唯一の経験。でもそれも、しゃべりがうまかった、のではなく、確か星野道夫氏の写真集の解説というシナリオで、みんなは台本を読むだけだったのだが、僕はアドリブで久米宏のマネをして、その本を開きながらオシャベリしたら、それが受けただけ、ということ。ま、昔からそういう感じの子どもだったようです。

ということもあり、アナウンサーとか放送局自体には、非常に興味津々だったのだ。だから、NHKの甲府放送局に出かけるのも「社会見学」そのもの。惜しむらくは、これが「ラジオ」だったら、ということ。自分の顔を晒されるテレビではなく、声だけが届くラジオだったらもっと伸び伸びしゃべれたのに、と。もう4年ほど前だったと思うが、自立支援法が施行される直前に、うちの大学がスポンサーになっているYBSラジオの「YGUラジオセミナー」という30分番組で話した時には、るんるんとしゃべっていた。テレビのような取材映像もなく、アナウンサーとのやりとりを通じて自立支援法の論点などを話したのだが、ラジオの一発取り、という雰囲気自体もアットホームで、アナウンサーとYさんに「あのね」と語りかけるようにしゃべっているうちに終わってしまった。収録はこちらは確か1時間ちょっと。ところがどっこい、昨日の収録は結局4時間弱もかかってしまったのだ。

テレビの文法は、ラジオの文法とは違う、独特の文法である。しかも、生放送の文法と、録画の文法も違う。もともとディレクター氏からは「生で出られますか?」と言われたが、そんな恐ろしいことは出来ない。しかも今日は三重のお仕事だし。ということで、昨日の収録になったのだが、録画だとリハーサルがある。そして、このリハーサルは、テレビの文法に馴れるためのSST(social skill training)としては良いのだが、僕のようにすぐにいろんな事を忘れてしまう大馬鹿者にとっては、良し悪し相半ば。断片毎にリハーサル本番を繰り返す中で、すっかり全体像を忘れてしまう。実は3時間程度で終わるはずの収録が1時間伸びたのも、そんな素人の僕が最後の収録部分である内容を忘れてしまい、その部分の取り直しと別件が重なってしまったのだ。いやはや、すいませんでした。

でも、収録の合間に、ご一緒したアナウンサーのAさんに色々「取材」出来たのも、実に面白かった。番組の作り手としてどのようにテレビの文法を熟知し、効果的に伝えるために刈り込んでいくか。打ち合わせの段階から台本はどんどん変わっていき、台本通りにしゃべるのが苦手で毎回違うことをしゃべるやっかいな僕に合わせて、話す内容も変えながら、本質は突いてくださる。こちらはカメラが気になって上がってしまっているので、論理構成もグダグダになっているが、そのあたりもちゃんと押さえてペースメーカーになってくださる。つまり、アナウンサーはカメラの前の編集者なのだ、ということがよくわかった。ディレクターという番組構成の編集者と、スタジオトークの編集者であるアナウンサー。その異なる立場の編集者の文字通りコラボレーションの中から、視点が加えられ、削られ、加工されていくなかで、一本のストーリーが出来上がっていく。自分の語りの下手さはさておいて、そういう編集場面に生で立ち会えたこと自体が実に面白かった。

で、肝心の出来は、ですって? 就労移行支援で大学の近所の温泉で働いておられる方や、バーチャル工房の皆さんの取材映像は、実に良かったです。これは見る価値はあります。で、僕自身はすっかり何をしゃべったか覚えていないので、今から三重に敵前逃亡です

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。