懇親会における世界旅行

めるはば♪

竹端@すっかりイスタンブール、です。

アメリカに行くときは14時間の時差に苦しむのですが、6時間の時差も、西に向かうときはそんなにしんどくないですね。昨日もよく眠れ、今日も学会とサイトシーイングの双方で、かなり充実した一日でした。ちなみに、今は現地時間の七夕様の日付変更線ちょっと超える前、です。

1年前の学会で大きくこけた、という話を前回のエントリーで書いた。その時、「壁の花」ということについて、書いておいたが触れなかったので、その話をしたい。

「壁の花」。これは名著「「英語のバカヤロー! ~『英語の壁』に挑んだ12人の日本人~ 」(泰文堂)で知ったフレーズ。ナショナルで、インターナショナルで、名をなした人びとが、いかに英語と格闘したか、という逸話。著名な研究者でも、国際学会の懇親会で、誰も話をする人がおらず、壁際でひっそりと飲み物を飲んでいた、つまりは「壁の花」状態だった、というエピソードが載っている。そして、そのことは、過去3回の学会発表でも強く意識したことだった。顔なじみはいないし、なんだか阻害されているようだし、結局俺って「壁の花」だよなぁ、と。

今回の学会でも、懇親会ではやっぱり「壁の花」になるのではないか、と危惧していた。だが、結果的には、いろいろな人と沢山の話をできた。その大きな違いは何か。それは、周りの人の配慮ではなく、簡単に言えば自分の気の持ちよう。もう少しそれなりに言えば、いかに上手な聴き手になるか、である。今日の実感から、少しそのことに触れてみよう。

今回の学会でも、日本人研究者の数名をのぞいては、知り合いの全くいない学会だった。そして、懇親会が今日の夕方あったのだが、当然最初から「やあ、こんにちわ。ごぶさたしております」なんて言う人はほとんどおらず。さて、どうしたものか、と戸惑っていた。ちなみに、今までならそういう懇親会は全くエスケープしている自分であった。

だが、何だかこの春からそういう選択肢は逆に自分の何かを狭めている、狭隘な自己の肯定のような気もしていた。だから、今日は懇親会で自分がどう変われるか、を試してみた。たいそうな事を言っているが、実践は簡単。ナンパ、よろしく、目があった人、同じテーブルについた人に、「こんにちわ。日本から来たタケバタといいます。そちらはどちらのお国から? 何の研究をしておられるのですか?」という質問をしてみたのだ。これが、単純だが、どんぴしゃり。おかげで、実に多くのストーリーに耳を傾けることができた。

今日偶然お目にかかって聞いたストーリーは、アメリカのユダヤコミュニティとイスラエルのアラブコミュニティの和解、アルメニアにおける汚職文化の変容、マレーシアの若者教育、スリランカの開発経済、アルゼンチンの市民活動、イギリス・日本・イタリアのNPOの違い、国際的な人権条約と人身売買の実態の解離…一見とりとめのない話だが、どれも今日出席している「サードセクター」というキーワードで共通している。そして、たまたま僕が話を伺った人に共通しているだけかもしれないが、「現状に満足しない」「何とかかえられないか」という共通軸を持っていることが、話を伺っていて、よくわかった。そして、その共通軸に沿いながらこちらがよい聴き手になろうと努めると、実に興味深いストーリーを沢山聞くことができるのだ。つまり、たった2時間の懇親会で、世界旅行したかのように、色々なストーリーに耳を傾けられるのだ。

まあ、それはよく考えれば当たり前で、研究者の集まりなのだから、自分の話を聞いて欲しいと思う人の集まりなのだ。で、その場の盲点は、あなたの話を聞きたい、と僕が思うかどうか、ということ。みんな、自分の話を聞いてもらいたい人が多いが、他者の話を聞きたい人がどれだけいるか、という事が問題なのだ。だからこそ、僕のような英語がかなりブロークンなバッドリスナーでも、「その話、もうちょっと聞かせて」とお願いすると、たった二時間で即席世界旅行になるくらい、沢山のストーリーと出会えたのだ。ま、これは「国際サードセクター学会」という、学際的な研究の場だから可能になった部分は多分にあると思うが…。

なにはともあれ、人種を問わずに聴き続ける世界旅行に興じたので、今日はすごく充実した一日だった。明日以後も、懇親会以外でも世界旅行を続けよう、と思う。まだ見ぬ世界はあまりに多い。でも、自分で実践・経験できる場は、ごく限られている。だからこそ、この世界旅行という名の他人の成果から学ぶチャンスは、本当にまたとないチャンスだ。今まで、そのチャンスに気づけなく無駄に落ち込んでいた日々があるからこそ、それをきっちり取り戻したい。そう思うトルコの夜更けであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。