厚生労働省案への意見書

一昨日の総合福祉部会に関してのブログは、これまでのブログの中で、一番沢山読まれているようである。たった1日あまりで、当該ページビューが643件となった。多くの方に読まれて、ありがとうございます。

一部ツイッターでもつぶやいたが、多くの人に読まれると、「業界内部向けで難しい」「本当に伝えたいならもっとわかりやすい表現を」というご批判を受けた。このご批判は、実にごもっとも。前回のは、部会直後の甲府へ帰るあずさ号の中で書いた、あくまでも速報的なメモだった。なので、そのうちに、障害者制度改革の動きやこれまでの流れと言った「文脈」を共有していない方にも理解して頂く事を目指した文章は、書いてみようとおもっている。
ただ、その前に、総合福祉法部会の構成員は、今日の正午〆切で、厚生労働省案に対して追加意見があれば書いて送れ、と言われていた。意見は沢山あったので、先ほど書いて事務局に送信した。せっかくなので、その内容を下に貼り付けておく。ただ、これは骨格提言と厚労省案をベースにした意見書なので、あくまでも「文脈」を共有できていない方には???の内容かもしれない。その点は、そのうち書くので、今回はご容赦頂ければ幸いである。でも、厚労省案と対比して読んで頂けると、何となく厚労省案の問題点もわかるのではないか、とも思われる。
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法案骨子(厚生労働省案)に対する意見
委員名:竹端寛
○テーマ:障害者の範囲
(要点)
「政令で定めるもの」という規定では、「制度の谷間」の問題は解消されない。
(理由)
骨格提言では,改正障害者基本法に基づき、谷間を生まない包括的規定がなされている。一方厚労省案で示された「政令で定めるもの」というのは特定の病名を列挙する形(制限列挙)であり、これではこの特定の病名に入らない難病者の「社会的障壁」を支援するサービス体系にならない。よって骨格提言の法の対象規定を遵守した内容にする事を求める。
○テーマ:障害程度区分の見直し
(要点)
支給決定の方式そのものを見直さないと、障害者のニーズにあった支援は提供できない。
(理由)
骨格提言の「Ⅰ―Ⅲ 選択と決定」においては、現在の障害程度区分に基づく支給決定の問題点を整理した上で、障害程度区分を用いない協議・調整モデルの導入を提案している。障害者のADLのみを評価する障害程度区分では、障害者個人の生活のしづらさや社会的障壁といったQOL支援の側面を評価する事はできない。そのため、次年度予算案で程度区分に関する調査・検討の費用として1億円が計上されているが、これは協議調整モデルでの支給決定のモデル事業予算として活用する事が、国費の有効活用として求められる。ちなみに今後5年で検討では遅すぎるので、モデル事業も3年間で成果を検証すべきである。
○テーマ:障害者に対する支援(サービス)の充実
(要点)
真に重度障害者の地域移行を進めるためには、パーソナルアシスタンス制度(重度訪問介護の発展的継承)が必要不可欠である。
(理由)
強度行動障害や重い自閉症、重症心身障害のある人が地域移行出来ない最大の理由は、本人の意思決定支援が出来る、本人と関係性の深い支援者が地域で支える介護保障体制が出来ていないからである。重度障害者の家族や入所施設関係者が地域移行に納得できていないのも、この点にある。その問題を超える最大の突破口が、個別の関係性を重視し、包括性と継続性を持たせたパーソナルアシスタンス制度である。なお財源問題を心配する声もあるが、入所施設を減らし、その職員も再トレーニングした上で「地域移行」させ、当該職員がパーソナルアシスタンス制度の担い手になることで、予算の爆発的増加はあり得ず、むしろ費用対効果は遙かに高いと予想される。
○テーマ:地域生活の基盤の計画的整備
(要点)
障害者権利条約19条a項の「特定の生活様式を義務づけられない」を真に達成する為には、グループホームの整備だけでは不十分で有り、地域基盤整備10カ年戦略を法定化する必要がある。
(理由)
現在、入院や入所せざるを得ない当事者が本当に地域に安心して移行するためには、入所施設や精神科病院の削減目標ではなく、地域資源を10年間で計画的・段階的に増やしていく目標が必要不可欠である。90年代に高齢者福祉の世界でゴールドプラン等の地域福祉重点の計画を立てた事が、介護保険制度の成功を大きく導いた。これと同様に、地域生活の基盤の計画的整備を進めるためには、国が主導した中長期計画が必要不可欠である。国の財源的措置もないまま障害福祉計画の見直しと自立支援協議会の設置促進をしても、地域の社会資源の増加は見込まれない。
○テーマ:地域移行(厚生労働省案から漏れた課題)
(要点)
地域移行について法定化すると共に、現在入院・入所している障害者向けのニーズ調査を国事業として行うべきである。
(理由)
厚生労働省は地域移行推進のサービス基盤整備として、グループホーム等の整備や地域移行支援の報酬の加算、あるいは障害福祉計画での数値目標の設定などの運用で解決できる、としている。だが、地域移行が自立支援法下で進まなかったのは、地域基盤整備10カ年戦略のような地域資源の底上げ計画がなく、またそれを国が主導で行わなかった点が大きい。骨格提言の「地域移行」で述べたように、国が責任を持って地域移行を促進する事を法律で明記する事が求められる。また、現在入所・入院している人に向けたニーズ調査が、部会構成員による厚生科学研究で今年度行われたが、これは在宅者へのニーズ調査同様、国事業として次年度以後取り組むべきである。
○テーマ:権利擁護(厚生労働省案から漏れた課題)
(要点)
障害者虐待防止法と成年後見制度だけでは、権利擁護の施策は不十分であり、オンブズパーソン制度や寄り添い型の相談支援機関などの創設が必要不可欠である。
(理由)
本来の権利擁護とは、日常生活場
面において、本人が孤立して抱える苦情や差別的な取り扱い、虐待その他の人権侵害から護られ、またその事を通じて本人がエンパワメントされて行くことを指す。その方法論として、金銭管理に限定した成年後見制度や、精神科病院や学校における虐待の通報義務のない障害者虐待防止法だけでは不十分である。骨格提言の「権利擁護」でも整理したように、入所施設や精神科病院で本人の気持ちを聞き取り、寄り添うオンブズパーソン制度や、あるいは地域において寄り添い型の相談支援を行う拠点を作ることが必要不可欠である。
○テーマ:総合的な相談支援体系の整備
(要点)
計画相談支援を行ったり、基幹型相談支援センターが地域の事業者や民生委員などの関係者と連携するだけでは、当事者のニーズに基づく相談支援とはならない。
(理由)
相談支援とは、本人との信頼関係を構築した上で、そのニーズを引き出し、それを実現する為の手立てを一緒に考え、その実現を後押しする一連のプロセスである。一方、22年改正法で出来る計画相談は、あくまでもサービス利用の管理と計画に留まっている。本来の相談支援とは、どのサービスに当てはめるか、が目的ではなく、本人のQOLを高めるためにはどのような支援が必要か、そのサービスが使えれば活用し、無ければソーシャルアクションで創り出す事も求められる。上記内容を実現する為には、骨格提言の「相談支援」で述べた新たな相談支援体制の実現が求められる。
○テーマ: 総合福祉部会の発展的継承(厚生労働省案から漏れた課題)
(要点)
骨格提言と厚生労働省案は、あまりに隔たりが大きく、真の障害者制度改革の実現とは言えない。この問題を解決するために、総合福祉部会の構成員および厚労省担当者をベースとしたプロジェクトチームを作り、骨格提言を遵守した新法作成と漸進的・計画的移行のための具体的な検討に当たるべきである。
(理由)
厚生労働省は、新法制定をしない理由として、「現場や自治体が混乱するから」と述べた。だが、これは新法の問題ではなく、現行の自立支援法が具体的なビジョンに欠けていたために起こった現象である。現場は自立支援法の度重なる改正という「苦い記憶」を繰り返したくない、と思っているのだ。その問題を解決するためには、この改革によって現場は具体的にこのようにより良くなる、というビジョンと、それを具体化する工程表を作ることが必要不可欠である。厚生労働省案は、残念ながら現場に精通していない厚労省の人間だけでは骨格提言を実現することが無理である、という表明でもあった。であれば、総合福祉部会を発展的に継承し、内閣府と厚労省が共催する形で、総合福祉部会の構成員と厚労省の担当者によるプロジェクトチームを複数作り、現場の混乱を最小限にとどめ、かつ骨格提言を遵守した新法の制定と段階的・計画的実現に向けた具体的なアクションプランを検討すべきである。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。