猛烈な3日間

ここ3日間、猛烈に忙しい日々だった。

火曜は、前回書いたけれど、夜に頼まれた講演の直前までその内容に逡巡して、話し始めたら止まらずに帰ってきたのは午前様近く。その後何だか2時頃まで眠れず、夜も何度か目覚め、フラフラとした足取りのまま、水曜朝に大学に向かう。

水曜日は1~3限が授業で、1限はテスト、2限は2年生ゼミの発表会、お昼休みに会議を挟んで、3限は新入生の夏休みの課題について議論、と濃厚だった。このうち2限の学生の発表は、「甲府のバリアフリーチェック」と題した企画で、大学から学生チャレンジ制度として認められ、10万円の資金も頂くことになった企画だ(http://www.yguppr.net/050708cha/050708cha_main.html)。このチャレンジ制度に応募することになってから、2年生ゼミは急に盛り上がり、学生達が自分たちで企画書を書き上げ、交渉や下調べもし、大学と甲府市内のバリアフリーチェックも既に1度、行っている。今回は、その経験を、他のゼミの時間をお借りして発表する「キャラバン隊」の企画の実行だ。このゼミ企画は、実際にバリアフリーチェックを重ねるだけでなく、その経験を、車いす体験のない人々に広く知って貰う「普及・啓発活動」も二大柱に掲げているだけに、学生達も、予行演習や事前準備もして、当日の発表会に至った。

当日は、司会も進行も発表も、全部ゼミのみんなで切り盛りしてもらうことにした。タケバタのしたことと言えば、写真をスキャナーで取り込んで、パソコンで写す係、と他のゼミとの調整や教室変更のお願いのみ。2年生のスキルアップも目的にしているので、基本的に「できないこと、困ったことのみをアシストする」という姿勢で臨んでいる。最初、学生達は相当とまどった様子だったが、少し助言をしたら、自分で気づくことが出来たら、少しずつ前進し始めた。その後、お昼休みに反省会をしたのだが、僕は会議とかち合っていたため、要点のみを伝えて、夏休みの計画などについては学生達に話し合って決めてごらん、とだけ伝えて退散。でも、彼ら彼女らはきちんと話し合い、この夏に新たなバリアフリーチェックや、インタビューなど色々計画しているらしい。何だかいい感じになってきた。

その後、水曜日は会議が重なり、終わった後もある先生と立ち話をしていたら、気がつけば夜7時。昼飯抜き、っていうのがこんなに疲労困憊につながるとヘロヘロになりながら、翌日の準備をして、早々に退散する。

木曜日。この日は2限にロースクールの学生さんに話をする機会を与えて頂く。精神障害者の権利擁護に法曹界が果たすべき役割、という内容を準備したのだが、さすがに司法試験勉強をしている皆さんだけあって、質問も鋭い。あたふたしながらも、頭をフル回転させながら、しゃべりまくってしまった。質問の中で「現場の大変さはわかるけど、もっと普及啓発をしなければならないのでは? 先生はしているのか?」と尋ねられたので、「この場がまさに普及啓発です」とお答えする。冗談ではなく、障害者の権利擁護に理解関心のある弁護士の数はまだまだ少ない。なので、未来の法曹界を担う方々に、現時点での問題点や、今成立や施行されようとしている障害者自立支援法案、医療観察法などについて、その問題点や論点をお伝えするのも、私の大切な「啓発活動」だと思っている。やはり、どちらの法律についても初めて耳にされた方も多かったようで、これをきっかけに少しはご関心を持って頂ければ、と願うタケバタであった。

で、お昼休みには前述の2年生ゼミの学生2人が昨日のお昼休みの話し合いの報告に訪れる。彼らとじっくり話していて、最初に出逢った4月の時点より遙かにたくましくなっていることに気づく。これまで塾、予備校、専門学校や大学で色んな学生さんに出逢ってきたけれど、どこでも学生さんの「成長の瞬間」に立ち会えるほど、嬉しいことはない。「しんどいけれど楽しい」と評価して貰えるのは、何よりも教師冥利に尽きる瞬間だ。そして、彼ら彼女らが授業にコミットする率が高くなればなるほど、現状では満足できなくなるのも、どこでも共通した事実。件の2人も、「ちょっと先生に頼りすぎているような気がする」「もっと俺たちがしっかりしなきゃ」と話してくれていた。いいぞ、いいぞ! その感じ。はじめの一歩、は踏み出してくれた。そこからもう一歩、もう二歩、と歩んで行くうちに、自分らしい何かが彼ら彼女らの中に生まれてくるはずだ。そしてそんな彼ら彼女らのヨチヨチ歩きをどうアシストするか、もタケバタの課題である。

その後一呼吸置いて、今度は3年生のゼミ学生が訪れる。先週でゼミ自体は終わったのだけれど、たまたまボランティアやNPOの現場に精通されている方が今大学院にいらっしゃり、先週ゲストスピーカーに来て頂いたら、学生さんたちも鼻が膨らむほど!おもしろがってくれた。終わった後もその方のところに押しかけて話を繰り広げていたので、「それなら今週も」と時間を取って頂いたのだ。たまたま僕が秋に講演の依頼を受けたある町の福祉事情の事に端を発し、都会と地方の「我が町への愛着度」の違い、自治会活動へのコミットメントの問題、社会福祉協議会の現在のあり方、はたまた地域福祉ってなに、という根源的問題まで、2時間近く、濃密な議論が続いた。こういう「場」は、僕自身にとってもすごく大きな学びになるし、学生さんにとってもきっと刺激的で、知的好奇心がそそられるんだろうなぁ、と思いながら、気がつけば次の会議の間際までしゃべっていた。来週もまたご足労願えることとなり、泣く泣く閉会した。

猛烈な3日間だったけれど、吸収するものもすごく多い3日間だった。特に後半2日間では、学生支援についてたくさん考えていたと思う。学生達の中には、大学に入って以降、「しんどいけれども楽しい」という体験を積んでいない人々もいる。そういう彼ら彼女らに、自分自身が体験することや、あるいはホンモノに触れる経験を積んでもらうなかで、いかに「はじめの一歩」を踏み出す支援を教員側が提供できるか。夏以後の大きな宿題を、僕も夏休み前にもらったような気がした。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。