失敗をすれば、こそ・・・

木曜は一日中こゆかった。

スウェーデンやオランダから知的障害を持つ当事者と支援者、またオーストラリアの研究者もゲストにお招きし、本人活動やその支援についての在り方、入所施設から地域に戻ることの意義、などについてのシンポジウムが一日あったのだ。実に内容が濃かった。

僕は主催者の研究班の一員として、裏方に回っていたのだが、僕がサポートに入った分科会がめっちゃ面白かった。そこでは、オランダとスウェーデンの障害当事者がプライバシーのことについても、基調講演で突っ込んだ発表。「僕はグループホームで世話人に自分の部屋のタンスの中まで全部見られてすごく嫌だった。だから、グループホームを出て、一軒家を借りて、そこで結婚して子供と妻と住んでいる。支援さえ受けられれば、集団生活する必要はない」とオランダ人のウィリアムさんが話せば、スウェーデンのジェーンさんは、「あたしは、障害があるから、といって低く見られたくない。私は今、結婚もして、自分の子供もいて、仕事も持って、いきいきと生きている」と発言。この2人の発言に触発されて、日本人の参加者からも色んな意見が飛び出してきた。

「僕はグループホームに住んでいるけれど、自分の部屋の鍵がもらえない。ほしい、といっても、許してもらえない」「あたしは、自分がいないときに掃除してほしいから、信頼できるスタッフには部屋の鍵を渡している」「自分も恋人がほしいが、どうしたら出来るのか教えてほしい」「お話をされたスウェーデンの方もオランダの方も、発言もしっかりしておられ、障害程度も軽いと思う。でも私の娘は大変重度。そういう重い障害では、プライバシーが大切なのもわかるけど、もしものことを考えると心配だ。その場合、どうすればいいか?」・・・

日本のこういったシンポジウムにしては珍しく、本音の質問がたくさん集まった。で、それに対するウィリアムとジェーンの答えもまた、深かった。

「鍵は自分を守る、という意味で、大事な『鍵』になってくる。なので、どんなに障害が重くとも、自分の部屋は自分で鍵をしめたい」「自分がいないときに掃除をしてほしい、という理由で鍵を渡すのは変だと思う。だって、もしも一軒家なら、その鍵を誰かに預ける、ということは不安なはず。信頼できるスタッフなら、自分がいるときに掃除して貰えるように頼めばいい」「結婚も、一度でうまくいくとは限らない。私は一度目のダンナはつまらない人だったので別れて、二回目で幸せになった」「重い障害を持っても、お母さんが想像する以上に『できる』可能性はある。だから、まずは任せて、やらせてみてほしい」

これらのやり取りを聞きながら、「過保護」と「失敗を未然に防ぐ」ということが、日本の福祉における大きな問題だな、と感じていた。

重度の障害のある人ほど、支援者や家族が様々なお膳立てを最初からしてしまう。例えば「お金をすぐに使い果たしてしまうので、かわいそうだから、小遣い管理を支援者がする」というのは、結構多くの施設で日常的に行われていることだ。だが、それに対してもウィリアムは大きく反対していた。「僕だって以前、お金の管理が苦手だった。レストランでご飯を食べた後になってスッカラカンであることに気づき、こっぴどく問いつめられたことがある。だが、その経験があるから、お金の管理はきちんとしなきゃいけない、という事が肌身でわかった。なので、使い果たしてしまうのも、いい経験だと思う。」 このウィリアムの発言からも、「失敗をする」という貴重な体験が、自分なりの試行錯誤を促し、次に「お金をうまく管理する」というステップへと繋がる最大のやりかたなんだなぁ、と感じさせられた。逆に「町で怒られたらかわいそう」だからと、そういう「失敗を未然に防い」でしまったら、結局の所、本人の潜在能力開発のチャンスを奪うだけだ。それは「過保護」というか、大切な成長のチャンスを奪うだけ、ということが、この分科会を聞いていて、すごく感じられた。

で、はたと考えた。今の日本では、障害者にはもちろんのこと、普通の学生さんにだって、「過保護」になっていないか? 失敗するチャンス、を与えているか? それを適切にフォローできているか? これは大変大きなテーマであると思う。少なからぬ学生さんが、「失敗したら嫌だし・・・」とあらたな何かに挑戦することを渋っている。試行錯誤は、失敗してはじめて次の段階にいくのに、それが嫌だから、面倒くさいから、とはじめの一歩が踏み出せない。すると、障害当事者への支援も、学生支援も、実はこの局面ではほとんど同じ。いかに、一歩踏み出してもらうか、そして失敗したときに、必要なだけの、次に繋げるための支援が、出過ぎない(過剰でない)形でどれだけ出来るか、なのだ。そう思うと、大変深くてこゆいお話であった・・・。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。