評価の難しさ

 

今日もあっという間に時間が過ぎていく。

朝一番から研究室に籠もり、午前中は紀要の追い込み。もともと「予定枚数40枚」なんて書いて提出していたが、出てきたものは、その倍の80枚! 実はまだ止まらず、さらにある視点で書き続けることも不可能ではないのだが、なんぼなんでも長すぎるし、少しバテてきた。とりあえず80枚で止めることにして、残りの部分はしきり直して、次回の宿題とする。こうして宿題原稿は延々と積み重なっていくことになるのだが、とにもかくにも一区切り着いた(まだ微調整は残っているけど・・・)。まあほぼ確定稿なので、とりあえず「はじめに」の部分をくっつけておこう。

日本では30万人以上の精神障害者が精神科病院に入院中であり、そのうち半数以上が5年以上の入院と、社会的入院患者の数は先進諸国の中で飛び抜けて多い。また、地域で暮らす精神障害者にとっても、頼りになる地域の社会資源はまだまだ少なく、安心して地域で生活できる体制にはほど遠いのが現状である。そんな中で、病院を退院して地域で自分らしく暮らしたい精神障害者のノーマライゼーションを保障する権利擁護の取り組みの重要性は、今ますます大きくなってきている。
だがこの問題を考えるにあたり、まずはっきりさせなければならないのは、日本の精神障害者の権利がどの程度擁護されているのか(いないのか)である。もし、大きく権利が擁護されていないなら、具体的にどのような権利がいかに擁護されていないか、を明確にすることから、この権利擁護に関する研究は始まる。そこで、本稿では、精神障害者の権利擁護の実態を、精神病院に入院している「入院患者の声」の分析をもとに明らかにする。その後、「入院中の精神障害者の権利に関する宣言」で謳われる10の項目を縦糸に、「入院患者の声」分析の内容を横糸に見立て、横糸が縦糸とどのように絡み合っているのか、の分析の中から、現状と課題を明らかにしたい。

今回はネットリじっくり縦糸と横糸を織り込んだ、つもりだ。乞うご期待。というか、明日最終的な詰めをちゃんとせねば・・・。

午後は採点に追われる。今回のテストでは初めてレポート形式をやめて論述テスト形式にした。というのも、昨年レポート形式にしたら、ネットからの剽窃や一部コピペが相次いだからだ。授業とは全く視点の違うノーマライゼーションについての小難しい論考や、自立支援法について全く授業で紹介した視点とは違う、しかも高尚な言葉遣いのレポートを発見すると、そのキーワードの一部をパソコンで打ってみる。すると、ほぼ百発百中で、ネットの全文剽窃、あるいは一部剽窃の繰り返し、などが見て取れたのだ。当然そういうレポートは不可にするのだが、採点しているこちらの気持ちが片づかない。何だかなぁ、と、教育目標とは裏腹な結果に、落ち込んでしまっていた。そこで、色々な先生方にリサーチして出てきたのが、小問題を多めに記述してもらう方式。実際に今回採点してみて、びっくりした。

4問の出題で、積み上げ方式の配点を作っていったら、合計90点満点になった。で、一問毎に部分点をちりばめながら、ここまで出来たら何点、と作っていくと、結構小論文に関しても適切な配点評価基準が定まってくる。平均点が34.5点と全体の4割に届かなかったのはガックリだが、得点調整をしながらならしていくと、高得点と赤点がほぼ同じ数になった。丸付けをしている最中は、小問の採点で必死で全然「意図せざる結果」なのだが、偏差の分布としてはまあまあよいようだ。最終的に、不可にするかどうか迷った時には出席状況を加味して、すっきり採点をし終えることが出来た。何より、不正行為に出会わなかったことが、身体に良いようだ。後期以後も、しばらくこのスタイルを続けてみよう。

このあたりのことを色々考えたくて、この前は『テストの科学』なる本を読んだ。この本のことを教えてくれたHPには大学教育についての有益な情報が載っているのだが、この池田氏の本も、テストの作り手としてはまだひよっ子の僕にとって、収穫は大きかった。この中で、「少数大課題設定方式が良くない」という筆者の主張はよくわかるのだが、地域福祉論のような分野では、一元的な(選択肢から選ばせるor○×形式の)問題設定は、正直しにくい。以前放送大学の問題を見る機会があったが、それでも佐藤学先生は果敢にマークシート問題を作っておられた。でも、あれは教育学の、しかも歴史的に評価が定まっている対象だから出来うるような気がする。そのため、地域福祉論では「多数小課題」な、短い論述の積み重ねを設問で出すことが、現時点での妥協点のような気がしている。

問題を解くよりも、作り、採点することの方が遙かに大変だ、と、今さらながらに知り始めたタケバタであった。午前中に一応書き上げた権利擁護の論文も、最後は権利侵害をどうチェックするか、という審査や評価の問題になってきた。どの分野でも、公正で効果的な評価、は難しいのである。

あ、結局昨日のもう一冊にたどり着く前に息切れだ。でも、その著者に関連してもう一冊紹介したいのだが、研究室に置き忘れてきたので、また明日。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。