小手先の地域移行?

 

この間から折に触れてこのブログでも書いていた、問題の多い「退院支援施設」について、ここ最近様々な動きが出ているので、まとめてご紹介しておこう。

まず、この問題のことをよくご存じない方は、昨日、今日と読売新聞が丹念に取り扱っている。
【短い版】 
【詳しい版】 
取材をされた大阪科学部の原さんは90年代の大和川病院事件からずっと取材を続けてこられた敏腕記者。内容も、迫り方も、まさしく本質を突いている。僕も原さんの記事ではずいぶん勉強させて頂いた。そんな大先輩の記事に、僕もチョコちょこっと載っていたいりする。

精神病棟を1億円!かけて改築して、福祉施設にしてしまえば、72000人の社会的入院患者は、あっという間に名目上退院出来る。だが、敷地内にずっと住んでいれば、そこは鍵があってもなくても、管轄が医療だろうが福祉だろうが、ご本人の意識としては、「入院」状態であることにはかわりない。こういう状況を作らないために、病院からの地域移行に94億円の予算を使うのならよくわかる。しかし、同じ94億円が使われるのは、半永久的な病院敷地内の4人部屋の「住まい」。なんだかこの政策は、本当にずれている、としかいいようもない。本来この政策にのってもよいはずの病院経営者団体だって、「手薄な体制の施設に変えるのは、我々の要望とは違う」というくらいなのだから。

で、当事者団体も当然の事ながら、大反対である。この間、3障害の当事者が集って、共同歩調をとりながら自立支援法の政策課題に意見表明をし続けてきた「障害者の地域生活確立の実現を求める全国大行動」実行委員会が、今回、この「退院支援施設」に反対の動きを示すことになった。
【その詳細】

従来知的障害者と身体障害者は支援費制度、精神だけ別制度、と別れてきたので、3障害の共同歩調がなかなか取りにくかったのだ、3障害のサービスが一元化される自立支援法制定の動きを「奇貨」として、障害当事者団体で声を揃え始めた。で、今回、精神障害者のこの問題に、かつてないほどの注目が、他障害からも集まっている。それは、この呼びかけ文の下記の部分が本質を突いている。

「これは精神障害者だけの問題ではありません。入居施設はこれから5年後には現在の入居者の1割以上を地域移行し、施設入居者を7%削減すると言っています。しかし、『精神障害者退院支援施設』のように、実質的にまったく地域移行していないのに、看板だけ書き換えて、地域移行完了!とやりかねません。」

まさしく、どこかで「例外」が出てくれば、例外は瞬く間に拡大する。
自立支援法で掲げた「地域移行の促進」という大原則も、こういう「例外」を精神病院で認めたら、知的障害者や身体障害者の入所施設に「飛び火」することは、間違いない。

この呼びかけ文にあるとおり、8月24日に行われる障害福祉関連の重要な会議(障害者福祉施策担当主幹課長会議)の前日の8月23日、厚労省との交渉の中で、おそらく何らかの厚労省の案が出てくるはずだ。というのも、この「退院支援施設」は4月末にぽっとその概要が「案」として示されたわりに、何にも議論しない中で、10月から実施、という無茶なスケジュールで動いているからである。すると、何が何でも10月から強行するなら、24日にその細かい内容を出さざるを得ない。

「国は、小手先ではなく、まっとうな退院促進対策に取り組まないといけない。」という原さんの言葉は、「小手先」に流れかねない今だからこそ、大変重要で、かつ重みのある言葉だと思う。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。