関連づけを意識する

今日は金浦空港から。行きは成田-仁川、帰りは金浦-羽田と飛行機を変えてみた。金浦空港は免税店はショボいが、市内からのアクセスは良い。奥さま向けの化粧品は金浦空港で買えたので、用は済んでしまった。あと1時間ほど待ち時間があるので、いつものように旅のまとめを書いておきたい。

ソウルは行きは2時間半、帰りは2時間で着くので、東京からなら沖縄に向かうのと同じ感覚。もちろん、言語や文化は違うが、今回はその違いよりも、似ている部分や日本との関連性について深く考えた旅であった。
以前に書いたが、最近、松岡正剛氏の得意な「連関読書」を、仕事だけでなく、また読書だけでもなく、いろんな部分で意識している。今回はソウルで開かれる、東アジアの社会政策に関心を持つ研究者の会議に出かけたのだが、両者に対しても、関連づけをしようと心がけた。前者のソウルに関しては、何冊かの韓国本を出かける前から読み囓った。「ソウルの風景」「現代韓国史」「『韓流』と『日流』」「世界の都市の物語 ソウル」。この順番で読み進めて、非常によかった。今、本は手元にないので、うる覚えの雑感を。
一冊目の「ソウルの風景」は四方田犬彦氏のエッセイ。朴政権下の戒厳令が敷かれていたソウルとミレニアムの年のソウルの、たった20数年間での大きな隔たりを、彼の心象風景と共に描いた佳作。この本が、まずはソウルや韓国社会への理解の下地を作ってくれた。次に「現代韓国史」では、主に20世紀の韓国の激動ぶりを、特に日本統治下の後に焦点化して描いている。朴政権が戒厳令を敷くことになった歪みの理由、ソ連とアメリカ、日本と中国、資本主義と共産主義、経済発展と国内平和…そういった様々な外交や時局的な「あいだ」に挟まれて、歪みを引き受け続けた結果の激動であり、その中でも奇跡の成長を遂げ続けてきた隣国のことを、本当にわかっていなかった、知ろうとしていなかった、と実感。
その二冊がベースとなったので、同世代のクォン・ソンヨク氏が書く「『韓流』と『日流』」には、様々な意味で心を動かされた。彼自身、韓国出身だが父の仕事の関係で日本に小学生時代から暮らしていた経験があり、またその後祖国に戻り、今は日本の大学で働いている。その両国の「あいだ」として、確かご自身は「境界人」と表現しておられたと思うが、その境界にいるからこそ肌で感じた無知や無理解を乗り越える武器として、文化間交流の視点に着目した、興味深い一冊。日本におけるヨン様以来の韓国ドラマ、映画のブームと、それにシンクロするように、韓国における日本のアイドル歌手や村上春樹などの小説家のブーム。そういった国境の垣根を越えた作品へのリスペクトが、相手の国や文化への自然な興味や関心につながっていく、という分析は、非常にスッと頭に入ってくる内容であった。
そういった形で大変遅まきながら韓国の事を吸収しつつあったから、学会会場で出会った韓国人のYさんとも、昨晩飲みながら色々話が出来た。彼は介護保険の研究で博士号をとったばかりであり、日本の介護保険との比較もしているので、議論が弾んだのだが、その中で、自分がその下地として学んでいた事も触れながら、「相手のことをもっと知り合わなければ」と乾杯を繰り返しながら語り合っていた。
そういう夜の飲み会での出会いだけでなく、こんかいの学会は、前回のトルコ同様、大変吸収出来るものが多い内容であった。以前のトルコでの話と重なるが、自分自身、本当に今まで自分中心主義、自国中心主義的で、他国との比較もスウェーデンやアメリカといった、いわゆる先進地との比較しか興味のない、視野狭窄な状態であった。だから、学会発表をしても、あまり興味がある発表が多くあると感じられず、タコツボ的に殻に閉じこもっていた。だが、一旦その自分の線引きの蓋を取り払ってみると、様々なものが鮮やかに見えてくる。韓国の、台湾の、香港の、社会政策に対する様々なアプローチやその課題を聞く中で、ユニバーサルな課題、アジア的な課題、あるいはその国や文化の歴史に根ざす課題・・・といったことが見えてくる。そういう内実が見えてくると、その他人の発表を通じて、自分の研究や興味関心との異同がクリアに見えてくる。そうすると、俄然多くの発表へ関心が芽生えてくる。
そんな連関的な関わりがようやく国際学会でも出来るようになったのだ。思えば2年前の、実質的な国際学会のデビュー時から、少しは成長できたのではないか、と思う。下手な英語の発表も「タケバタさんのジャパニーズ・イングリッシュは伝えようとする気持ちがわかるからいいよ」と、昨年のシェフィールドでもご一緒したK先生にも誉めて頂いた。国内で、海外で、あるいは仕事で、プライベートで、そんな区切りは関係なく、ご縁があって関わる対象との関連づけをもっと強くしながら、自分にとってのアクチュアルな世界をより豊穣なものにしたい。そんなことを考えているうちに、搭乗時間を迎えた。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。