5年間のおつきあい

 

この冬初めて、甲府で雪が結構降っている。

こう書くと「県外」の方はびっくりするかもしれない。関西方面の人からは、「ことしは雪が大変でしょう?」とよく言われるのであるが、日本海側の雪は八ヶ岳の麓で全て降り止んでしまうので、甲府は寒いけれども「からっ風」。おかげで加湿器がないと、肌もボロボロになってしまう。ちなみに山梨の方々は「県外」のイントネーションはフラットに「けんがい」と強弱なしでお読みになる。関西弁では「け」に力が入ったので、違うアクセントだ。あと、妙に「けんない」と「けんがい」の違いを強調されるのも、山梨に来てびっくりしたことの一つ。京都や大阪に暮らしていたとき、「府内」とか「府外」なんて言いもしなかった。で、とにかく雪でアクセラ君の屋根も少し白くなっている。明朝はやかんを持ってアクセラ君の窓ガラスにお湯をかける必要がありそうだ。

アクセラ君と言えば、今朝は奥さまを送った後、眠い目をこすりながらアクセラ君を走らせて、運転免許試験場へ。そう、2月9日の肉の日が誕生日のタケバタは免許更新。それも、生まれて初めて「優良運転者」だそうで、5年更新のために出かけたのだ。ちなみにこれまで、一時停止違反やら、信号違反、ねずみ取りやらで捕まっていたので、なかかなゴールドカードにたどり着けなかった。もひとつ言うと、上述の違反は全て現行犯取り押さえ。よくもまあ、若気の至りとはいえ、不注意だったものです。で、ようやく30才を終わりに迎え、最近は安全運転を心がけるので、今度はゴールド免許だそうなのだが、ショックだった事がある。それは、写真だ。まん丸で、まるでアンパンマンのような姿。ショックと言うより、あまりのまんまるに、茫然自失となってしまった。

もちろん、写真というのが、撮りようによって大きく様相を変えることは、その昔一応これでも写真部だったので、知っているつもりだ。ライティングや角度、背景によって、その姿は微妙に変わる。だからこそ、人物写真はすごく難しいし、免許写真がほんとによく撮られることなんて滅多にないのも知っているつもりだ。でも、あまりにもあまり、の不細工な写りに、それを見た奥さまも一言、「ぶっさいく」。そんな念を押さなくてもいいのに・・・。

高校時代に写真に入れ込んでいた頃、毎月「アサヒカメラ」を何度か読み返し、いっぱしの芸術写真論を友人と語っていた青き日々を懐かしく思い出す。現実をある観点から切り取り、自分の思い通りに脚色出来る写真が、自己表現の手段としてすごくかっこよく感じたあのころ。しかし、結局カメラを通じた映像表現に自分は向いていない、と知るまで、そう長くはかからなかった。今某新聞社のカメラマンをしている同級生は、やはりピカイチに光った写真を撮っていた。一方僕は、奇をてらってみたり、変な思い入れのある自己満足的な写真ばかりだった。挙げ句の果てに、白黒写真のスポッティングが面倒くさくて印画紙にマジックで「塗り絵」したり、セピア調色で遊んでみたり、単なるはちゃめちゃだった。真っ当に写真を撮った時、同級生なのに件の友人とのあまりのセンスの違いに、茫然自失しそうで、キワモノ路線でごまかしていた自分を思い出す。そう、自己表現としての写真は結構難しいのだ。

で、結局写真での自己表現に関する自分自身のセンスのなさに思い至り、写真から撤退。でも、「現実をある観点から切り取り、自分の思い通りに脚色」したくって、結局研究者の世界にしがみついているのだと思う。まあ、どこまで「切り取」った「現実」を「思い通りに脚色」出来ているか、はアヤシイ。しかし、少なくともこの分野では、ある程度の解釈を加え、そこそこ納得できうる表現で提示できている、と思う。少なくとも、僕にとっては写真より論文の方が、自分の地をうまく出しやすい、そう思う。写真のように、ごまかしがきかず、被写体と撮影条件のみでの勝負、ではなくて、文字に仮託すると、かなりの言い訳が効く。そう、言い訳少年タケバタにとって、やはり言い訳の効かないメディアは、相当にキツイのだ。(もちろん識者諸氏から『論文だってそんなに甘くはない』なんて言われたら、この分野からも一目山に逃げるしかないのだが・・・)

というわけで、マジマジと自分の写真を見ていたら、やはりげんなりしてきたタケバタであった。この写真、初めてのゴールド免許なのでこれから5年間ものおつきあい。せめて、36才の誕生日には、もうちょっとすっきりいい男で写っていたいのだが、果たしてどうなりますことやら・・・。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。