出たとこ勝負

週末、別府で開かれた保健所や病院の現場で働く方々のセミナーの場にいた。日夜バタバタと働いている現場職員の方々が、日常の場から離れた温泉地で、少しモードを切り替えて、目下の課題である自立支援法を見据えつつ普段の実践を振り返る、そんな場であった。タケバタはそんな皆さんへの課題整理のお手伝いをすればいい・・・そういうテーマが与えられていた。

普段は講演して質疑応答があってオシマイ、ということが多っかたのだが、2泊3日泊まり込んでのこのセミナーは、その後分科会形式でじっくり話し込む、という場面がある。1日目と2日目の午前は基調講演が続くのだが、2日目の午後と3日目の朝は、まるまる自由にディスカッションとして使える。そんな場だったので、好奇心も手伝って、本来「助言者」のはずのタケバタが、えらい出しゃばってしまった。でも、めっちゃおもしろかった。

2日目の午前はタケバタによるいつものアヤシイ講演。午後がディスカッションになる、ということを伺っていたので、しかも時間をいつもより長めに頂いたので、現場で働く公務員の方々に少しスパイスと刺激をまぶした話をしてみた。精神病院や入所施設の中で地域自立生活を「諦め」ざるを得ない人々が30万人もいるという現状から、なぜ「諦め」なければならないのか、「諦め」ないために現場の支援者として何をしなければならないのか、そもそも支援者が社会的諸現実を前に「・・・だから仕方ない」と自己規定(限定)して「諦め」ていないか・・・。

こういう問いかけの後、昼食を挟んで開かれた「地域での精神保健福祉」分科会。お節介にも司会を乗っ取った私から、「せっかく午後は議論の場ですから、皆さんの実践から感じる疑問や不安をまずぶつけてみましょう」と冒頭40人の参加者全員にお話頂くことを宣言。皆さん、面食らったようだったが、話し始めると出るわ出るわ・・・。当初は一人1,2分と計算してだいたい90分くらいかなぁ、なんて思っていたのだが、終わってみたら午後4時。皆さん、たんまり溜まっていたようだ。

保健師や看護師、ソーシャルワーカーという様々な専門職が、公的機関で地域精神保健福祉に携わる、という共通項でつながったこの現場。しかしながら地域や、職種や、現場が異なると、共通項があるとはいえ、実に様々な、各現場に根ざした実情や課題がてんこ盛りに出てきた。過疎地での社会資源のなさ、大都市での対応ケースの多さ、精神科救急に関しての各地域独自の取り組みや悩み、新たな法律への対応のとまどい・・・これらの相違の上に、仕事が次々と追いかけてきて立ち止まって考える暇がない、自立支援法の資料も膨大すぎてつかみ所がない・・・といった共通項が折り重なって、もこもことした「渦」状のものが、会場中を埋め尽くしてきた。そこでいったんブレイク。参加者の方々に少しリフレッシュして頂いている間に、おせっかいタケバタはホワイトボードに「渦」の整理。なんだかこうなったらワークショップ風にしちゃえ、と15分の休みを使って、この「渦」に一定の編集を加え、二つの物語としてまとめてみた。

「精神障害者の入院支援から退院支援、地域自立生活支援の現状と課題」「働く人間の抱える課題」 物語のタイトルだけ書くとあっさりしてみえるが、ともに会場の方々の厚みと深みのある語りに基づく重層的なストーリー。この整理から他の助言者の方と共にタケバタも即興的にあれこれと角度を変えて合いの手を入れているうちに、すっかり時刻は5時半。渦をいったんある程度の形に納めて、この日の会は終了した。

で、実はさらに面白かさが深まったのは、最終日の午前のセッション。昨日の感想を、夜の「関サバ」「温泉」などの感想も含めてまた皆さんに短く述べてもらった後、これは政策を考えるセミナーだったので、主催者から今後の政策提言のたたき台を提示。で、勉強会なら一方的に聞いてオシマイ、なのだが、これはあくまで現場の皆さんが政策提言するためのきっかけ作りの「場」でもあったので、たびたびタケバタはいらぬお節介。「皆さんの現場の声に基づいて作られたはずのこの提言案は皆さんの実感にそぐっていますか? なんだか現場のリアリティとの間に深い河を感じたりしませんか?」と聞いてみると、案の定、多くの方がコックリうなずかれる。どうせなら、その深い河を超えるために、皆さんの方からこのたたき案への「提言」をしてみませんか、とハンドマイクもって会場内を巡ると、またまた色んな課題や提言が出ること、出ること。他の助言者の方々にも時折コメントを頂きながら、「渦」をさらにまいているうちに、気がつけば昨日から立ち上がって来つつある「物語」が立体的になって、よりクリアになってきた。そんな折り、勝手に司会進行を進めた僕は、次のようにまとめてみた。

皆さんのお話は、行き着くところはある一つのポイントです。それは、「私が抱える現場の現状」というミクロ的現実と、「当事者中心の支援」というマクロ的理想の「あいだ」をどう「つなぎ」「ネットワークをつけるか」というメゾ的な展開の模索です。このメゾ的なるものは、実はもう一つの局面の「あいだ」でもあります。それは、現場で働かれている方々の「熱意」「優しさ」「善意」といった個人的要因と、職場や地域などの現場での様々な矛盾という社会的要因の「あいだ」でどう皆さんが踏ん張れるか、ということ。善意や優しさだけで頑張り続けると、多くの場合、燃え尽きに至る。でもかといって様々な矛盾に「したり顔」になって「・・・だから仕方ない」と「諦め」ていては何も始まらない。この間のしんどいメゾ的な部分に、ミクロもマクロも見据えてどう踏ん張れるか、自分の現場なりの何らかの社会的な解決案をどう構築していけるか、それが皆さんの腕の見せ所であり、政策と現場、当事者と制度をつなぐ皆さんに課せられた使命でもあるのでは・・・。

今、改めてこの課程を書いてみて、こういう形式のワークショップ、というか、セミナーは結構オモロイかも、そしてこういうやり取りにタケバタは案外向いているかも、などとようやく気づいた始末。帰りの飛行機があるので、しゃべるだけしゃべって「脱兎のごとく」(主催者曰く)帰っていった私に、企画された方々はきっと「勝手にあれこれやりやがって」とお怒りになられたかもしれない(もしそうならごめんなさい)。でも、一緒にタクシーに乗った、3日間同じ場で講師として参加された大先輩のKさん曰く、「出たとこ勝負には強いねぇ」というあきれ半分!?の評価を頂いた。僕自身としては、この間何となく考え続けてきた「支援現場職員のエンパワメント」「要求・反対運動から政策提言・連携に向けたソーシャルアクションのパラダイム転換」といった課題を、図らずもこのセミナーで実践してみて、皆さんにも少しは持って帰って頂けるものもあったのでは、とちょっぴり自負している部分もある。

「出たとこ勝負」で出てきたネタを、「その場限り」で終わらせず、皆さんにきちんと持って帰ってもらいたい。そして月曜日以後、現場で、「・・・だから仕方ない」と「諦め」そうになった時に、このセミナーの断片をふと思い出してくださったら。ならばきっと「・・・にも関わらず」と言い続け、当事者が諦めずに想いや願いを実現出来るような、そんな地域を作り出すために、踏ん張ってくださるのでは・・・。そう想いながら、卯年生まれのタケバタは軽やかに別府を去っていったのであった。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。