しんかが問われる

 

昨日の夕刻。出張からの帰り、新大阪から新幹線に飛び乗る。
僕の座席はA席。三人がけの一番窓側だ。いつもなら夕刻の新幹線は満員なのに、今日に限って真ん中の席は空いている。京都から乗ってくるのかな、と思いきや、さにあらず。名古屋を過ぎても真ん中は空いている。それでようやく気づいた。
「そうか、今日は土曜日だ!」

大学が春休みというと、「何をしているんですか?」とたまに聞かれる。僕も自分が学生だった頃、疑問だった。大学の休みの時期、教員って何をしているんだろう? ずっと休みだったら、なんて楽な商売なのか・・・。 なってみて、その真相を知る。何をしているかって? 働いているのですよ。でも学生はいないでしょ、って? うん、だからこそ、研究しているのです。

そう、教育力がますます重視される大学(特に私立大学)にあって、授業があり、キャンパスに学生がいる間、教育やそれにまつわる大学の仕事で結構忙殺される。まあ、僕自身、教育もすごく大切だ、と思っているので、出来る限り手を抜かず、学生が来たらなるべく手を止めて、ゆっくりお話ししたい。特にわざわざ研究室まで訪ねてくださる学生さんに、「ごめん、今忙しいからまた来てね」といって、また来てくれるかどうか、はアヤシイ。特にいちげんさん、ならなおのこと。以前、ゼミのことを質問に来た学生さんに先述の発言をしてしまい、結局来てくれなかった苦い経験もある。そう、僕のような「がめつい」人間にとって、先生の部屋をノックする心理的負担は全然ないのだが、特に大学1,2年生の学生さんたちにとって、研究室を訪れる、というだけでも、大きな心理的負担なのだ。そういう事に気づいた後、ゼミ生でしっかりとした関係が出来た学生さん以外には、なるべくいつでも歓迎!の方針を示している。

ということは、授業期間の間は、自ずと学生さんたちのペースを尊重するので、自分のペースを保てなくなる。特に報告書作成やがっちりと原文の本を読み込む、といった集中して時間を投下しないと出来ないたぐいの仕事は、この期間には向かない。でも、「なんちゃって」研究者であっても、一応研究したいことはいっぱいあるし、プロジェクトもいくつか抱えているので、締め切りもあるし、一定の成果物も求められる。するとどうなるか。そう、授業期間が終わった後の、学生にとっては「お休み」の期間に必死になって研究するのである。つまり、研究者にはまとまった休みがなくなっていく・・・。 

まあ、そうはいっても、ちゃんと自分のペースでこつこつ授業期間中も研究を欠かさずやっておられる真面目な先生方も一方でいらっしゃる。でも、根がずさんでキャパシティーも大きくないくせに、たくさんのプロジェクトに色気を出して顔をつっこんでしまっているタケバタ。今年は3年間研究の報告書が二本、別の研究報告書や冊子原稿やらが二本、と計四本の締め切りが、すべてこの三月に重なった。その事態はいちおう昨年の夏からわかっていたのだが、夏休みはバテていて、9月はアメリカ調査に行っていて、10月から1月からは怒濤の授業期間。でもその期間にアメリカ調査のまとめのドラフトを平行してやっていて、2月から3月にかけては、毎日朝から晩までパソコンと睨めっこの日々。ここ二ヶ月、休みはほとんどなく、大学に出かけて研究しているか、あとは出張に出歩いているか、のハードな日々だった。

とはいえ、大学院が終わった後の二年のプータロー期間のつらさ、居場所のなさ、アイデンティティクライシスの期間と比べたら、研究室を頂き、研究に没頭できる時間のなんと贅沢なことか。この期間に心から感謝しながら、研究会やら調査、出張のない日はまるまる「報告書を書く日」として確保して、ずっと書き続けてきた。おかげさまで、ようやく報告書が二本終わり、ついでに研究会で口出しをしてしまったために原案を書くことになった原稿も書き、そして昨日の大阪行きの車内で、別の報告書もほぼ仕上げた。あとのもう一つの原稿は、「四月でもいい」と聞いたので、ちょっとギブアップ。ここしばらくアウトプットしすぎで、心身共にクタクタになっている。なので、火曜から海外でいっぱいインプットするバランス調整のアライメント期間が必要だ。なにせ、曜日感覚も忘れかけているのだから・・・。

今回、根を詰めて原稿を書いていて、だいぶ「書くこと」への抵抗感がなくなって来ている自分を改めて発見。以前は口では言えてもうまく書けない、というもどかしさが大きかったのだが、とにかくズンズン書いて、何度も書き直しているうちに、にょきっと何かが出てくる、というオノマトペの世界を体感。そう、書いていれば出てくるモノは出てくるのです。なので、ようやく書く楽しさが生まれてきた。だが、そうやって仕事に没頭し、出張も講演も調査も引き受けていると、自ずとプライベートの時間がなくなる。この間、夜ご飯が9時を超える日々が続き、とたんに皮下脂肪がついた。これはデブ路線への直行だし、パートナーにも相当迷惑をかけた。なんせほとんど仕事人間化した数ヶ月だったもんね。

インプットとアウトプットのバランスが均衡してこそ、いい仕事が出来る。これはオンとオフのバランスも同じ。しゃにむにオンばっかりなら、オフがずたずたになり、内部崩壊するのは目に見えている。ここしばらくは、パートナーに様々な点で我慢してもらって、その崩壊をかろうじて防げた感じ。ほんと、感謝することしきり、である。4月以後は、このオン・オフのバランスの均衡も上手にとれるよう、いかに効率よく仕事を仕上げて、うまくオフの時間を作るか、が大切になってくる、としみじみ感じている。せっかく自然豊かな山梨に引っ越して、アクセラ号もやってきたのに、後半はほとんどドライブにも行けてないしね。

二年目の春。いちおうの仕事の流れもつかんだ。課題点もみえている。さて、そうバランスをとりながら、求められている課題と、したい課題を両立させていくか。ここらあたりから、僕の真価が問われているような気がする。しんか、といえば、皮下脂肪の進化(深化)を食い止められるかどうか、の瀬戸際にも到着しているのだけれど・・・。 やっぱ、腹筋しかないのかなぁ・・・。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。