どこに向かっての前進?

 

何回か、旅の備忘録をお届けします。大学が今日からスタートしたので、記憶がなくならないうちに・・・。

<3月24日 タイ時間午後6時過ぎ(日本は+2時間)>

ドンムアン空港からバンコク市内へ向かうタクシーの中でパソコンをたたいている。時刻は夕方6時。1泊2日の濃厚なラオスでの旅を終え、少しおなかの調子も良くないせいもあってか、くたびれたので、思わず高いけど到着口の前で待っていたリムジンを頼んだのだ。バンコクまで700B2100円)。30分ほど並んで待てば、200Bの普通のタクシーに乗れたのだろうが、とてもそんな気力もない。鉄道で行けば5Bくらいで行けるのだろうが・・・。

ヴィエンチャンからラオスに飛び立つ機内。離陸後わずか3分でメコン川を越え、タイ国内にはいる。それまで舗装されていない道が多かったのに、タイにはいると急に舗装された道が多いのにまず驚かされる。ましてや、バンコクに至る高速道路から見える高層ビルディングや高級車、夕方の車のラッシュなど、まるで別世界だ。本当に異国の地にやってきた、という観がある。

ラオスは世界で最貧国の一つといわれている、と頭ではわかっていたが、ノンカイの橋を渡って首都ヴィエンチャンにたどり着くまでは、それが実感できなかた。だが、車がヴィエンチャンの中心部にさしかかってビックリ。人口500万の1国の首都が、タイ東北部の田舎町ノンカイよりも随分とのどかな、田舎町なのだ。

ノンカイは今回で6回目なのに、橋向かいのラオスに訪れるのは生まれて初めて。今回は彼の地に住むNさんがいるから、というきっかけがあってはじめて訪れたのだが、Nさんの計らいで現地のNGO関係者とこの二日間、ディスカッションする機会に恵まれ、ノンカイの支援と根本的に異なるラオスの支援の難しさ、ということを痛感させられた。

皆さんのご記憶の中にあるかどうかは定かではないが、ラオスは社会主義国である。帰り道、ヴィエンチャンの空港に2時間前につき、することもなく出発ロビーでテレビを見ていたら、ちょうどタイの番組をやっていた。きらびやかな女性たちのジョーク番組だったが、突然空港職員のお姉さんがチャンネルを変える。せっかく面白かったのに、と思いながら、変えられたチャンネルを見ると、古色蒼然とした映像。流れてくる軍隊的音楽。そう、インドシナ紛争が終わり、ラオスの共産党が出来てから31年となる、というテロップと共に、なんだか指導者らしきおじさんの演説。それを軍服を着たおじさん、ネクタイ姿のおじさん、お坊さんなどが手をたたいている。延々そういう映像が5分ほど続いた後、画面は農地へ。ラオス語はわからなくても、イメージだけで丸わかり。たぶんこんな感じだ。

「肥沃な大地で今日も農民は汗を流し、その成果としてタマネギや大豆、米、果物などをわが人民同胞はたくさん生産する。街の市場には食べ物であふれ、子供たちは今日も国家の未来の建設のために全身全霊をかけて勉強に打ち込んでいる。みよ、彼ら彼女らの輝かしい姿を。国家はパソコンや高等教育を生徒たちに施し、彼ら彼女らが祖国をさらに隆起させる先兵となることを期待してやまない。忘れてはいけない。我が国は長い戦いの後に、同胞達の輝かしい勝利によって、この国を興した。そして、我が国はこれからますます人民が一致団結し、全力で明日の輝かしい未来のために前進していくのである。前進。前進。ああ前進・・・」

何度も言うが、もちろんラオス語はわからない。でも、明らかにこんな感じのプロパガンダ画面だったのだ。

ぐったりした身体でぼんやり眺めながら、これはいったい何なのだろう、と疑問の渦が頭の中を巡っていた。前進の果てが、世界最貧国の一つ、という結果をもたらしたのだろうか。その一方、街中には援助機関の車であふれている。空港の設備だって、日本からの寄贈のステッカーがあちこちに貼られている。一方で、ビエンチャンの物価は確かに安く、公務員は社会主義国に共通するかのようにあまり働いている様子でもなく、街全体が「のんびりしているが、豊かではない」。しかし、そんなヴィエンチャン市民も、見ているテレビはほとんど皆、タイのテレビばかり、という。川向かいのお隣の国の繁栄と欲望とエネルギッシュなものを垣間見ながら、日々の自分たちの生活は公務員で月給30ドル前後、という。様々な国々からの政府開発援助の資金は大量に流れ込んでいるが、ご多分に漏れず、本当にほしいところにダイレクトに届いている、とは言い難い現実も一方でみられる。

こういう矛盾の中で、日々支援に携わっておられる方々の話を聞くと、タイとは違う複雑さで、混乱の度を深めた一泊二日の訪問であった。全然深く分析できていないのはわかっている。だが、このバンコクの喧噪を眺めているうちに、自分の中での「なんじゃこりゃ」という???マークを忘れないうちに書き留めておきたくて、隣国ラオスの公務員の20日分の給料に相当する700Bを払って、ぴかぴかのトヨタカムリの車内から、とまどいを打ち込んでみた。

結構疲れているようだ。今宵は早く寝て、明日からの会議に備えよう。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。