危機対応の分かれ目

 

それにしてもきつい一週間だった。

風邪を引いた月曜日は休んだが、火曜日は4コマ連続の定期試験監督。もうフラフラで、鼻声で、最悪のコンディションだったが、お仕事だからきちんとこなさなければならない。しかも、やっと試験監督が終わった、と思ったら、今度は水曜の研究プロジェクト用のデスクワーク。ある研究者の方にやって頂いた力作のレポートを読み込みながら、体裁面での手を入れていくだけなのだが、結構時間がかかる。テスト監督が終わったらすぐ帰ろうと思っていたが、結局研究室にどっぷり日が暮れるまで滞在する羽目に。とにかく何とかそれも終わって、這々の体で家に帰ったのだが、あいにくその日はパートナーも帰りが遅い。何か作らねば、でも景気づけないとやる気でないよなぁ、と缶ビールを空けているうちに、どうせなら、と、簡単なおうどんにプラスして、先週末に作れなかったひじきと豆の炊き合わせを作ってしまう。まあ、食い意地が張っている間は大丈夫、というのが、僕の風邪のバロメーターなので、よいことはよいのだが。

ちなみにこの日の体重はとうとう79.8キロまで落ちた。やっと70キロ代まで落ちてきた喜びをかみしめる。でも、いつもはここで手綱をゆるめる(というか、じゃあもういいや、と警戒意識を解除する)ために、結局この78,9キロあたりが、ここ数年の平均体重水域になっていた。今年中に70キロなんて無理かもしれないが、何とか75キロを目指してみたいと願っている。正月明けから今までの4キロ減は、暴飲暴食からの現状復帰、というごく真っ当な線だったので、これからが本当の正念場。食事の量や内容に気をつけるだけでなく、運動不足の解消、という当たり前だけれど着実な努力が必要な部分になる。意識的ダイエットに継続的に取り組んだことはこれまでなかったので、これからは未経験の領域。この勢いにのって、何とかモチベーションを保っていければ、と願っている。

そうそう、実はこのブログが、ダイエットには相当大きな影響を与えている。積極的情報開示という側面だけでなく、読んでくださっている方々から声をかけて頂くのが、ものすごく大きな励み(肯定的要因)の一つになっているのだ。お忙しいのにしばしば温かいコメントをくださるM先生だけでなく、昨日から今日にかけて大阪に出張に来ていたのだが、昨日久しぶりにお会いできた、大変お世話になっている先輩Nさんも、今日の仕事で一緒だった研究者仲間のお姉様も、「少しは痩せてきたんだって」と言ってくださるから、あら嬉しや。もともと人に言われてもやらない愚図なので、こういう他者評価による照り返しほど、自分のやる気を喚起するものはない。お三方とも、本当にありがとうございます。昨日はそのNさんと行った串カツ屋でも、ちゃんとカツの衣を外して食べておりました。さてはて、この小さな積み重ねはどこに僕を運んでくれるのやら。

風邪の方は、水曜日の東京での研究会も早めに抜けて寄り道せずに帰宅し、木曜の夜には大学近くの「ありやけ」で新鮮なアンコウと牡蠣をたっぷり買ってキムチ鍋をしたら、だいぶ快復に向かってきた。その代わり・・・恐れていた事態が勃発。そう、パートナーに移ってしまったようである。す、すんません。今日はお詫びに、ではないが、新大阪駅で551のシュウマイを買って帰ることにする。

で、新大阪駅でのお買い物、と言えば、コンコースの売店でぱっと目に入って買った一冊が「当たり」だった。一応帰りの電車でもお勉強しようと仕事関連の本を読んでいたのだが、さすがに今日は午前9時半から午後4時過ぎまで濃密な議論をしていたので、結構くたびれ果てている。名古屋へ向かう新幹線の中で横文字が良い睡眠薬になってしまったので、あきらめて名古屋からの「しなの」で何気なく読み始めていたら、こんな一節に出会った。

「人間は深刻な問題に直面すると、感情的に反応するように出来ている。周章狼狽してしまい、有効な対策を考える心の余裕もなくなる。
 だから、漫然と悩むことをやめ、現状でとり得るオプションを考えることに精神を集中することが決定的に大切である。問題をあれこれ蒸し返して悩むのではなく、ただ解決策を考えることのみに集中する。
 どんなに不快であっても、現実は現実として享受する。つぎに『不快な現実を変えるためのオプションは何か』を考える習慣を身につけることである。」(「プロ弁護士の思考術」矢部正秋著、PHP新書)

大変プラクティカルに考えるこの弁護士のクールな文体にいつしか引き込まれはじめた矢先、この「漫然と悩むことをやめ、現状でとり得るオプションを考えること」という部分で深く納得し、いろんなことを思い出していた。そうそう、まさに、それがないと苦境を脱出出来ないよなぁ、と。

そのとき思い出していたのは、20代の後半で我が身に降りかかった、ものすごく深刻な二つの危機の出来事である。諸々の事情で詳細は省くが、どちらもその後の人生に大きな影響を与える危機で、かつ発生時にはどちらも「こんなにひどい状況になったことはない」という深刻な状況であった。そのとき、第一の危機では見事に「感情的に反応」してしまったため、「周章狼狽」しきり、随分と多くの人々をその危機に巻き込み、ご迷惑も多方面にさんざんかけ、すれ違いが決定的な亀裂・決裂へと発展してしまった。そして、そのことは数年間ネガティブな尾を引き続け、生まれて初めて「胃が痛い」「心労で喉が通らない」という経験もした。

一方それから数年後、それとは全く種類も性質も異なるが、危機の度合いで言うと前者の危機と同じレベルの危機に遭遇する。そのときは、何だか不思議と冷静さを持つことが出来ていた。「問題をあれこれ蒸し返して悩む」ことよりも、「どんなに不快であっても、現実は現実として享受」しようとしていた。その上で、危機の内容を整理し、「不快な現実を変えるためのオプションは何か」を徹底的に考えていた。今でも、数年前の12月も暮れの頃、白々と夜が明けて行く中で、「ただ解決策を考えることのみに集中」していた情景をありありと思い出す。

もちろん人生の大先輩達に比べたら、僕の経験したこれらの危機は、質的にもレベル的にもごく初歩的なものかもしれない。だが、自分にとっては「人生最大の危機」だった。で、前者では結果的に失敗し、後者は難局を何とか乗り越えらた分かれ目は、今にして思うと、そのときに感情的反応に終始するか、徹底的に考えることに集中したのか、その違いだったんだ。長野の山間を疾走する「しなの」号からしんしんと降り積もる雪景色を眺めながら、ふと以前の二つの危機を総括していた。

ダイエットにしても、あるいは危機の乗り越え方にしても、そうやってreflectiveかつ意識的に対象となる問題について集中的に考え続けられるかどうか、が鍵になるようだ。

と、ここまで塩尻から甲府までの「スーパーあずさ」車中1時間で書いていたのだが、我が家に帰って体重を量ると、また81.4キロに逆戻り。出張中のカロリーオーバーと、風邪で一週間の運動不足がたたったようだ。ようやく鼻声も治ってきたので、こりゃあ明日はこってり泳がなきゃ。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。