4つのP

 

以前から気になっていた本を「風呂読書」していて、面白い記述に出会った。

「以下は高品質ソフトウェアの品質管理への確かな道のりを始めるための、考えられる最小限の活動である。0次計測を達成するには、四つの基本ステップがある:
1.高品質製品をもたらすために、適切に定義された、計測可能なタスクからなるプロジェクトをどう構成するかの知識
2.所望の品質を目指すプロジェクト進捗について、オープンな視点を創りだし維持するシステム
3.品質が何を意味するかを文章化する要求仕様システム
4.品質を目指す進歩のあらゆる結果を計測する一貫したレビューシステム」
(「ワインバーグのシステム洞察法」ワインバーグ著、共立出版株式会社、p295)

ソフトウェアの品質管理に関する著者の分析は、社会科学の分野にも充分な洞察を与えてくれている。とくに、ある組織の質的な管理やプロジェクトマネジメントを考える際には、古くさい精神論や価値論を並べ立てるより、このようなクールでロジカルな論理構成の方が、眼鏡を曇らさずに眺めることが出来るような気がする。いや、むしろシャープに、とも言えようか。一次計測である観察を有意義に行うための前提条件として示された「0次計測」を達成するために、必要な4つの基本ステップ。だがこれは単に0次計測だけでなく、実に多くの場面で応用が可能だ。それを感じたのは、次の一節を読んだからであった。

「人のコミュニケーション・システムのこれらの基本ルールは、0次計測システムへの必須条件を指し示す。次の三つの必須条件がある:
1,組織はオープンでなければならない。
2、組織は誠実でなければならない。
3,組織は人々の相互学習を奨励しなければならない。」(同上、p312)

そして、この必須条件をクリアするために次の4つのPが大切だそうな。

1.計測可能なプロジェクト(project)計画を創る。
2.計画を目で見えることが出来るポスター(poster)に翻訳する。
3.ポスターは、オープンな組織にふさわしく、公表(pulic)する。
4.ポスターは進捗(progress)を見せるように毎週更新する。

あらためて見てみると、日本はこの4つのPが、特に公金を原資金に事業展開する福祉分野で弱いような気がする。自立支援法なんかは顕著なのだが、プロジェクトやそれを規定する予算がまずありきで、このプロジェクトが本人のwell beingに対してどういう点で良いのかというゴールを共有すること(計画の見える化:ポスター化)や、それに対するオープンな議論とその公表もなく、進捗状況は何ヶ月かに一度の「大本営発表」でしか更新されない。厚労省は福祉現場に対して第三者評価や多くの書類提出などを通じて4つのPを実践することを求めているのだが、肝心の厚労省という機構自体に、この4つのPの視点が足りないような気もする。

だが、問題は厚労省というマクロ組織だけでない。いわんや福祉現場をや、である。目の前の支援と事務仕事に忙殺されていると、ポスター化やその公表、更新、といったことには、どこもなかなか手が回らないのが現状だ。ケアプランや個人総合計画といった「計画」策定の際も、その計画がご本人の何をゴールとして立てられるものか、という「品質」の規定や、その「品質」を目指すための「オープンな視点」、実際にやったことに対する確かな評価・・・などが欠けていると、「ヶ年計画」のような計画倒れになってしまう。

ワインバーグ氏の言う、組織の「オープン」「誠実」「人々の相互学習を奨励」という3つの「0次計測システムへの必須条件」は、結局の所、組織の構成員が、互いに誠実に持ち味を生かし、うまく行かないところは忌憚なく議論しあい、その議論からお互いが学ぶ、という組織であれば、計画倒れには終わらない、と指摘してくれているのだ。

振り返って僕自身が、この「オープン」「誠実」「相互学習を奨励」という条件に合致しているか。割合オープンなのだが、誠実さには、ちと欠けているかもしれない。そして、自分と意見を異にする人からも学べているか・・・と言われると、アヤシイ。ま、ブログで自分の核となるprojectposter化して、progressをコツコツpublicにしている間は、まだマシなのかもしれないが。さて、皆さんや皆さんの組織の4つのPは、どうですか?

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。