「死のロード」を振り返る

 

長かった出張モードもようやく今日の日帰り東京出張でおしまい、である。

2月3月はとにかくひどかった。この2ヶ月で、記憶に残っているだけでも、大阪出張が6回、東京出張が2回、長野出張が2回、カリフォルニア出張1回、である。その間手帳も消えてしまったので、記憶も曖昧だが、たぶんこんな感じだっただろう。あ、その間に二泊三日で妙高高原に滑りにもいったっけ。ということは、ほんと、半分以上家にいなかったことになる。まるで夏の高校野球が開催中の阪神タイガースの「死のロード」のような日々であった。

身体はちとしんどいが、それでも風邪を引かずになんとか乗り越えられたのは、ひとえにダイエット&運動モードに入っていたから、だと思う。昨日帰宅後にはかったら78.4キロだったが、体重の減少だけでなく、この1月からの3ヶ月で、体重の減少で身体が軽くなったと共に、幾分体力がついた。ばてにくくなったのだ。ああ、しんど、と思っても、そこからもう少しだけエネルギーが出るようになってきたのだ。

この間、カリフォルニアのホテルでは5回、大阪のホテルでは7回ジムに行き、神戸のホテルで1回泳いだ。何だか執念、というかとりつかれたようにジムに行っていたことになる。そういえば数年前、イギリスの著名な地域精神保健福祉の研究者兼精神科医の講演会に出かけた折のこと、講演の内容はほとんど忘れたのだが、彼が「私は日本滞在中も毎日プールで泳いでいます。自分のメンタルヘルスのためにも」と言っていたことだけが、妙に頭の片隅に残っていた。で、今回それを実践してみて、確かにその通り、と体感。出張中はただでさえ枕と食事と生活パターンが変わるので、リズムが狂う。あと、インタビューにしろ、講演にしろ、確実にたくさんの人に会う。そういう出入力が普段と違った意味で過剰になってくると、どこかでバランスを取り直す瞬間がないと、身が持たない。それが運動していると、汗をどばっとかくと共にすっとバランスまでも取り戻してくるのだ。身体の軸がしゃんと戻ってくる気分である。

でそうやって身体をジムモードにしていくと、身体から欲するシグナルも以前より聞き取れるようになってきたような気がする。現に今も身体が「運動せえへんの?」と問いかけてくれているのだ。「ごめんね。今日は10時半の特急で東京に行かなあかんので、明日の夕方まで待ってね。」 山梨のジムには引っ越し直後から入会していたのだが、以前は「仕事が忙しいand/orしんどいジムを先送り」という悪循環に陥っていた。でも、実は心身のバランスを保つためには、「仕事が忙しいand/orしんどいだからこそジムで気分転換」が必要だったのだ。言われてみたらごく当たり前のことなのだが、心から納得する、というのはなかなか難しいものである。

ここ最近、福祉専門職の「態度変容」ということが、研究の焦点に挙がっている。講演でもあれこれしゃべり、インタビュー調査もそういう内容で行った。4月からは、大規模に地域に入ってそのお手伝いをすることになりそうだ。その際、人に言う前に自分が変わっていないと、と思っていたので、ある種の「人体実験」を今回挙行したことになる。で、自分で試してよくわかったこと。それは、納得しないといくら他人からやいやい言われても変わらない、ということ。で、納得するためには、納得しない限りは後がないと言うところにまで追い込むのも一つの方法である、ということ。それから、後がないところで、いきなり高いハードルだけでなく、すぐに出来そうな低めのハードルも提示しておけば、重い腰を上げることも不可能ではない、ということ。これらの体験知を、ちゃんと仕事に活かせれば、それこそもうけもん、である。

ま、こういう「もうけもん」があったから、「死のロード」も最終的にはよかったことにしよう、と楽観的に結論づけて、そろそろ東京行きの準備を始めるとしよう。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。