落とし穴にはまらないために

 

恥ずかしい話なのだが、今年になって初めて「出汁」を取り始めた。

きっかけはまたもやダイエット。今年初めに読んだある栄養ジャーナリストの本を読んでいたら、煮物には一切砂糖を使わない、ちゃんと出汁を取れって、料理酒で味付けをすれば充分よい味が出る、と書いてあったのだ。とはいえ竹端家は結構砂糖を使った煮炊きものが多い。母親に聞いたところ、母親の実家(島根)では砂糖はそんなに入れなかったが、京都で育った私の祖母は醤油と砂糖で甘辛く煮る、実に内陸的な(京都的な)炊き方をしていたらしい。なので、父親からのリクエストで、次第に味付けも甘辛くなっていったそうな。母の味を再現する事がまず第一だった僕も、当然甘辛く煮ていた。でも、確かにこの本の著者の言うように「砂糖は百害あって一利なし」かもしれない。それなら・・・と、近所のスーパーで「そば・うどんに最適の鰹節」がうってたので、試しに買ってみた。すると・・・。

意外と簡単に、かつめちゃくちゃ美味しかったのだ。まず、安い昆布を買っておいて、それは一切れ、水煮する。ぐらぐらきたら、鰹節か、あるいは諏訪の魚屋で買った煮干しを放り込む。どちらにせよ5分程度、グラグラする。で、昆布と鰹節ないし煮干しをすくって、だし汁のできあがり。味噌汁ならあとは具をいれて一煮立てしたあと味噌を入れる。今日みたいに魚の煮付けなら、ここで具材を放り込み(今日はブリのあらに笹がきゴボウ)、酒とみりんで味付けてグラグラ。最後に醤油を適量いれたらオシマイ。どちらもやってみてわかったのだが、某「だのもと」時代とは全然違う、素材本来のおいしさが見事に引き出されている。いかにこれまで人工甘味料と砂糖味、で誤魔化してきたのか、と深く反省。それと共に、本来の出汁の素材を引き出す力、うまみを構成する力、に改めて恐れ入る。ヘルシーで、ほんとに美味しい。

ということをブログに書けるくらいなので、まあ何とか元気です。ただ、出張が終わった後、今度は年度末が締め切りの原稿3本に追われているので、なかなかドタバタしております。木曜日は研究室のお片づけに、土曜の講演レジュメ作成、そして我が家の仕事場のお片づけをやっているうちに日が暮れる。あけて金曜日は、大阪の「お母様」と共同作業である原稿の、自分の担当部分をサクサク書き上げて、また「お母様」にメールでお送りする。原則として他人との共同作業は自分のペースが守れないので好きではないのだが、尊敬する「お母様」との仕事は別格。いつも共同作業から、様々な叡智を頂き、多くのことをインスパイアされる。きっと、「お母様」からしたら、いい加減な僕の仕事に合わせることの方が大変なのだろうけれど、それでもこちらの問いかけ、書き方にも誠実に答えてくださるので、ありがたい限り。金曜の夜中までみっちり書き上げて、メールで送信する頃には、既に丑三つ時だった。

で、土曜は朝から別の草稿をサクサク書いて、講演に出かける。講演が終わって、地元のスーパーできのこをたんまり買い込んで、キノコパーティー”。薬膳料理的に、久しぶりにたんまりキノコを使い、また一個25円だった手羽元を20個買い込んで、寸胴鍋で大量にキノコスープを作る。日曜の朝はうどんをいれてキノコ汁、昼はそこに味噌も加えて味噌煮込みうどん、と一度の手間で三度美味しい料理だった。で、今、このリンクをはる為に調べていてびっくり。2006年1月7日は81キロだったんだね。その後、20070104日のブログではついに84キロを記録し、そこからダイエット開始。先ほど入浴後に体重計で測ったら、77.2キロ。今日は朝から夕方4時頃までみっちり別の原稿と格闘して、その後ジムでプールサウナ、で汗をかいた後なのだが、それでもよう頑張っているよね。というか、去年の正月より3キロ太っていた今年の正月って一体・・・、である。これらを、食生活改善と運動、という根本的な正攻法で改善するのが、今年の戦略なのだ。だから、出汁作りと、ダイエットは、きわめて真っ当である。

で、そういえば最近このブログでは書評らしきものはあんまり書けていない。本当は紹介したい本が数冊あるのだが、きっちり腰を落ち着けて紹介する余裕がないのだ。今日もちと酔っぱらってしまっているし。そんな折、ぱらっと開けた、最近読んで深く納得の一冊に、今日のこの流れと合致する箇所を発見。

「言いたいことは、初心を忘れないことがいかに困難かということだけだ。それに、手段であった信用蓄積が、いつの間にか目的に変わってしまい、かつての夢や志が消え失せていく政治家がいたとしても、だれが笑ったり、批判したりできるだろう。現実に染まっていくのは、政治家だろうが、ジャーナリスト、教育者、ビジネスマン、官僚だろうが、同じなのだから。」(野田智義、金井壽宏「リーダーシップの旅」光文社新書、p145)

理想を実現したい、という初心を貫徹するためには、多くの他者の理解が必要だ。その際、理解を得る上では「信用蓄積」という手段が大きな効力を発揮するが、いつの間にかその手段が自己目的化すると、気が付いたら初心ではなく、信用蓄積のための行動、という本末転倒な「現実に染」まる事態に陥ってしまう。だがこれは、何も政治家だけでなく、彼らを批判するジャーナリストや、私のような教育者、あるいはビジネスマンや官僚と、職種を超えて共通の「落とし穴だ」と著者達は指摘している。

他者を巻き込むことですら、これほどの落とし穴があるのだ。それだけ、自己をきちんと律することが求められる。その前に、まずは他人を巻き込まない自分だけで完結する場面でも、きちんと初心貫徹、という理念の内面化と完遂が求められる。

僕自身、脇がすごくあまい人間だし、いつも逃げるための言い訳を考えている人間だ。去年の時点で、81キロという自分の体重にも「忙しいし」「まあ何とか許容範囲だし」なんていう、よく考えたら何の説得材料にもならない事に自家中毒状態になって、結局その「現実に染」まった結果が、今年年始の84キロ越えにつながったのだ、と思う。他人に協力を仰ぐ以前の問題として、自分だけで解決できうる問題でも、これだけ苦しいのだ。そういう意味で、ちょっと偏屈なくらい、このブログでもかき立てたし、半ば意地になってダイエット作戦にここ3ヶ月取り組んできたが、「夢や志が消え失せ」ないためにも、ある種のよいリハビリになったように思う。問題は、これでよしとせず、だからこの体重を維持(ないしはさらなる減少)をさせながら、さて次はどういう「夢や志」で頑張りますか、ということである。

ま、それをちゃんと考える前に、まずは年度末の原稿を綺麗さっぱりと終わらせることの方が先ですよね。締め切りは、遅らせるため、ではなく、守るために存在している、はず。あと数日で終わる年度末前に、ちゃんと雁首そろえて出しておかないと、気持ちよく「年が越せない」。さて、あと数日、気張って頑張るとしますか。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。