靴と対話

 

なんだか久しぶりの休日らしい休日。土曜日は研究会で終日東京だったが、金曜日と日曜日の2日も休みが取れる。なんて、当たり前なことなのだが、ここしばらくそんなことはなかったので、なんたる幸せ。

金曜日は前からパートナーと約束していた、御殿場のアウトレットまで出かける。靴とベルトを探しに出かけたのだが、ズボンとベルトを購入。濃紺のズボンは、履いてみるとピッタリ、というだけでなく、あら不思議、細身に映る。ダイエットも大切だけど、こういう姑息な手段も時には重要。で、靴を買うつもりで入った革製品のショップで、靴は気に入ったものがなかったのだが、ベルトが自分のイメージに近いものを発見。イメージ、っていうか、単に今のベルトの代替品が欲しかっただけだ。このベルト、確か高校生の頃?くらいに、実家近くのジーパン屋で購入したもの。下手すれば、15年近く使っている計算になる。もうボロボロのヨレヨレ。確か3000円程度で購入したものなので、減価償却はとっくに済んでいる。今回は、皮の専門店で、その3倍程度の額のベルトを購入。多少は見栄えも気にしないと、ねぇ。

で、この革製品のお店で、手入れについて聞く中で、ふと「ラパーを今使っているのですが」と口に出すと「うーん、あれはちょっとねぇ」という話になる。よくよく聞いてみると、蜜蝋の製品は、光沢は出せるけど、皮の保湿には効果がないそうだ。動物の皮も、乳液と同じ成分のクリームが良い、というのは、人間の肌と同じ。試しにヨレヨレの15年選手のベルトにそのクリームを塗ってもらうと、表面がすべすべになる。塗っている際にしみこんでいくのもわかる。お店の人も「今日は暇なんで」と、ついでに財布までクリームを塗って頂く。何だか「店頭実演のおじさんに引き込まれて商品購入」の図式そのものだが、黒と茶のクリームを購入。早速、今日のお休みに塗って見ると、靴がしっとりしてくるのがわかる。なるほど、そんなにカラカラだったのですね。これは大変失礼しました。面倒くさくても、ちゃんと皮の特徴を理解した上で、その特徴に添ったお手入れが必要なようです。

で、かなり強引なのだが、面倒くさくても特徴を理解した上でレスポンスしなければ、というのは、人間でも同じ。こないだとある場で、私がある意見に対応しているのを聞いていた第三者から、「タケバタさんって愛があるねぇ」とコメントされる。「どういうこと?」って聞いてみると、「だって、ああいう発言にもちゃんとレスポンスしようとしているもの」という答え。確かに、その場では、少しややこしい問いが僕に投げかけられていた。でもそこで「あんたはわかっていない」「僕の意図は別にある」という居丈高な振る舞いをすることや、相手の発言を無視するようでは大人げない(といいながら、僕自身、これまで結構そうしてしまっていたのだけれど)。

最近気付き始めたのは、そういう発言の中にも、何らかのヒントが隠されている、ということ。それに気付き始めてから、この種の、ジャストミートではない返球(他人はそれを暴投とかいう)の中には、たまにとんでもなく「拾い球」もある、と思い始めている。こないだもそうだった。

以前も、同じような質問をされたことがあった。その事について、こないだもさらに聞かれる。正直、前回聞かれた時は、「なぜこの人はわかってくれないのだろう」という問いから、「こういうわかっていない人は問題だ」という非難追求モードに変わっていた。きちんと相手の出したボールを、受け止めて、投げ返していなかった。まあ、お陰で「わかってもらえないのなら、論文でも書いて証明してみよう」と一本の論文を書き上げるよいインセンティブは頂けたのだけれど。

今回、3年ぶりくらいに同じような質問をされた。でも、今回は、その相手の発言を聞いていて、他の人に同様な質問をされ、その中で、相手がどういう意図でそういう質問をしてきたのか、の全容がようやくわかってきた。で、わかってきてみると、以前は「あんたが理解していない」という追求モードだったが、逆にそのモード自体が、相手からすると「福祉の研究者は一面的だ」という事の証拠になっている事が判明。つまり、私のその行為含めて、それって「偏りがあるのではないですか?」というご指摘を頂いていたのだ。その偏りを自覚するどころか、頑なにその偏りにしがみついて、「あなたはわかっていない」モードで語りかけてしまっていたのだから、これは何と愚かしい。そういうことに、3年もたってようやく気づかせて頂いたのだから、ちと進歩はあったのだろうか。

そう、面倒くさくても、相手の特徴や意図をしっかり理解した上でレスポンスしていれば、思わぬ「めっけもん」があるんですね。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。