問題解決の前に

 

快晴の甲府。パソコンのある部屋から見える愛宕山はようやく朱色に色づいている。

今日は今から富士山の麓まで車を走らせる。といっても、観光ではなくお仕事。富士北麓圏域の障害当事者やご家族、支援者や行政関係者の前で、特別アドバイザーとして半年仕事をしてきたことを報告しに行く場面だ。今年は仕事で御坂峠を何回越えたことだろう。全県的に巡って、色んな関係者の話を伺う中で見えてきた課題を整理し、その現場現場に合うような内容を現場に返していく。そういうやり取りが続いて来たし、今日の現場でもそうなるだろうと思う。

こういう場合、正解が一つ、なんてことはあり得ない。その現場の特性に合わせた形で、しかもぶれてはいけない視点だけはしっかり入れながら、現場に受け入れやすい形で伝えていくにはどうすればいいのか。まさに、自分の見立てる力、掴む力、そして伝える力が試されている。そんな試行錯誤をしている最中だからこそ、次のフレーズは、身に染みる。

「返答のパターン
1.最初に、集中する。
2.つぎに、相手の感情の構造に入る。
3.最後に、状況を転換する問題解決の行動をとる。
まず、このパターンを完遂するには創造性を維持する必要があるため、最初はかならずしっかりと集中する。つぎに、相手の発言の『感情的内容』に触れる方法を探し、自分の感情と相手の感情の状態をリンクさせる。感情的内容は『ここにいることをどう思っているのだろう?』という第二の普遍的質問を使えばわかる。最後に、相手は何を実現したいのかという肝心の内容に進み、どのような手段をとれば相手の望む状況に近づくことができるかを判断する。」
(ジェラルド・M・ワインバーグ『コンサルタントの道具箱』 日経BP社、p150に基づき、文章は一部省略と入れ替えをしている)

色んな現場に呼ばれ、時には研究室にお越しになり、様々な論点が出される。そこで、何らかの対応が求められる。その際、振り返ってみると、この3つのプロセスを経ていけば、何らかの打開策が見つかっていく。逆に言うと、「相手の感情の構造」を理解することなく、もっともらしい答えを出したところで、問題は何ら解決しない。この相手とは、担当者個人レベルのこともあれば、その部署レベル、あるいはその地域レベル、と言うこともある。とにかく、感情的なものに入っていくためには、こちらも自分が集中して、感情的に安定している必要がある。

そういう機微が、少しずつだが、わかりはじめた。学生であれ、市町村であれ、当事者であれ、支援する際の基本は「相手の望む状況に近づくことができるか」であることに何らか変わりない。こちらの価値観を押しつけるのではなく、「相手の望む状況」への接近支援、それが今の私に課せられているミッションだ。だからこそ、自分が集中できる余裕がないと、物事はうまくいかない。今日もルンルン富士山を眺めながら、気持ちよくドライブして出かけるとするか。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。