良薬の苦さと堅さ

 

またもやご無沙汰しております。

年度末で、来週スウェーデンに調査に行く準備もあり、12月末から年度末までの特別プロジェクトの仕事も入り込んでくると、文字通り「目の回る」日々である。大学の講義は終わったが、ゼミ生の支援やら、採点・成績評価もある。研修も2月は結構ある。県の仕事も入ってくる。カレンダーを見るとびっちり予定が組まれており、風邪を引く余裕すらない。でも、この間、大阪出張のあたりでは危なかった。兎に角葛根湯を飲んで何とかしのげたけれど

で、今日は前からパートナーと約束していた、今季初のスキーのハズが
朝から、寝覚めが悪い。昨日調子に乗ってスパークリングと赤の2本のボトルを空けてしまったことが、バッチリ身体にきて、二日酔いで全身が怠い。しかも外は甲府でも雪が残っている。何だかこのまま出かけると風邪引きそうだよなぁ、でも今週末からスウェーデンなのに絶対引けないよなぁ。そう思いながら、車に乗り込んで、高速に乗る直前になって、パートナーがジャンパーを忘れたと言い出した。そこでお互い顔を見合わす。「まあ、無理をするな、やめとけ」、ということですね。で、スキーは直前で中止に。

さて、家に帰って荷物を下ろし、せっかく外出モード+珍しい二人揃った休日なので、服を少し軽装にして、バーゲンの広告が入っていた八ヶ岳アウトレットに向かう。小淵沢インターを降りると、結構道に雪が残っているばかりか、日陰はちと凍っていた模様。これで大門峠なんか行ったら、死にそうだった。行かなくてよかった、と実感。ついでに、バーゲンで温かい焦げ茶のズボンなんぞを安く手に入れて大満足。結局運動より買い物をとったのでありました。

事ほど左様にルンルンと今日は息抜きが出来たのだが、目の前の仕事はどれも結構〆切がきているだけでなく、一定の質の高さや自身の向き合う姿勢が問われているものが多い。つかの間の休日の夕べに、改めて、襟を正すために、先週の大阪出張の帰りに読んだ本の一節を触れておこう。

「ベーター読みは努力をともなう。口あたりもよくない。堅くてかみくだくのも大変である。よほど意欲がないと、できるものではない。社会へ出ると、学校の勉強ではベーター読みを相当やっていたような人が、そんなことは遠い夢であったかというように、もっぱら通俗のアルファー読みにわれを忘れる。」(外山滋比古『「読み」の整理学』ちくま文庫、p173)

外山氏は、「既知や経験済みのことについてのことばの活動」を「アルファー読み」、それに対して「未知を知るための言語活動」を「ベーター読み」と定義している(同上、p119)。最近、忙しくしていると、つい、アルファー読みで誤魔化そうとする自分がいる。堅くてかみくだく時間がない、なんて言い訳をして、サクッと掴みやすい「アルファー文献」でお茶を濁している自分がいる。最近、ある方からこの間の自分の行動に対する戒めのお言葉を頂いたのだが、それは「ベーター読みが出来ていない」という事を別の形で指摘されたのだった。「通俗のアルファー読みにわれを忘れ」ていないか? グサッとくる問いだ。そして、忙しいからこそ、今日のように休みもちゃんととった上で、「未知を知るためのベーター読み」をしなければ、内部から腐ってしまう。

「ロープウェーがあるから、それに乗って頂上へ行くことも出来るけれども、山に登った喜びはロープウェーでは味わうことはできない。アルファー読みは楽でたのしいだろう。ベーター読みはやっかいである。しかし、ロープウェーがあっても登山が決してなくならないように、いかにアルファー読み向きの読みものが多くなっても、ベーター読みがおそろそかにされてはならない。わかりやすい本があふれるように多い、こういう時代だからこそ、けわしい山に挑むような読書がいっそうつよく求められる。」(同上、p142-143)

時間がないことを、安易にロープウェーに頼る理由としていては、そもそも「けわしい山」に登るための基礎体力すらなくなってしまう。登山経験があるといっても、所詮僕が登ってきた山は、「けわしい山」の麓までの登山に過ぎない。ここからが、本当の登山の「入口」のはずだ。その「入口」で、すでにロープウェーに頼り始めているようでは、「既知や経験済みのこと」の閉じた環の中に入り込んでしまう。忙しいから、時間がないから、色々求められることが多いからこそ、安易な方向に逃げずに、優先順位をつけ、「けわしい山」への努力を引き受けることが大切なのだ。良薬は口に苦し、なだけでなく、咀嚼もしづらい。この苦さや堅さに耐えて、噛み続けることが出来るか。「昔取った杵柄」に固執する人生か、更なる成長を遂げるのか、の分かれ道にさしかかっている。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。