海外学会発表を成功させる8箇条

来週はトルコで学会発表。その前に、〆切を延ばして貰った日本語論文と、学会発表のためのパワポ作りが全然終わっていない。英語の発表に際して、その学会では丁寧に口頭発表における8箇条を示してくれている。結構この8箇条がピッタリ当てはまる。日本語に抄訳してみたら、こんな感じだ(いや、その前に仕事しろよ・・・と突っ込まれそうだが)
1,原稿をそのまま読んではいけません。多くの聞き手は、大急ぎのフルペーパー棒読みではなく、鍵となるアイデアに焦点化した発表を求めています。
2,聞き手はあなたの論文の概要を読んで、そのセッションに参加しようと決めたのですから、その概要と口頭発表にどのような関わりがあるのか、を明らかにしてください
3,まずあなたの発表の全体を要約した上で、聞き手が原稿全体を読んでみたいな、と思わせるような一部分を切り取って、発表してください
4,読みやすくて大きい表示のパワーポイントなら、聞き手の理解を助けるでしょう。2,3分で一枚と考えて、5~7枚くらいのスライドを作るのが妥当でしょう。
5,25部から40部くらいのパワポの資料を印刷して持ってきてください。
6,会議に出る前、何度か発表練習してからお越し下さい。
7,時間は守りましょう
8,質問に答えられるように準備しておきましょう
この8つは、実に簡潔にして的を得ている。1の前半や2は基本として、興味深いのが3の視点だ。メッセージや内容を作る事に必死の伝え手の場合、20分なのに全部を伝えようとする。だから、4にも関わるのだが、20分発表なのにパワーポイント30枚、などというあり得ない構成になっていて、時間切れになる。書かれているように、だいたいパワポは2,3分で一枚と考えるのが妥当なので、早口の僕だって日本語での講演でも1時間なら20~25枚程度に収めている。そういえば、某K先生などのように、パワポの資料は50枚ほどあって、2時間講演なのに、実際に使ったパワポは数枚、という大物もいるが、あくまでもそれは超越した人のみに許される特権(笑)。
3に戻ると、母国語話者の間で講演する時も、その分野にどれほど通底しているか、によって、切り取り方は違う。専門家や玄人向きでない発表では、かなり切り取って分かりやすく焦点化しないと、伝わらない。今回は専門家向け、と言っても、文化の異なる人々の集まりで、かつサードセクター学会なので、バックボーンも政治学・社会学・行政学・都市工学…とまさに多種多様。であれば、なおさらのこと、1の後半に触れているように、「鍵となるアイデアに焦点化した発表」をするからこそ、他の領域の人が聴いても、「それはうちの領域で言えば、こうも言えるのではないか」といった学際的な議論に発展するのである。
なんて訳知り顔で言っているが、僕もこの2年間で3回の学会発表して、手痛い思いを色々してきた試行錯誤の経験があるからこそ、この8箇条は痛切に身に染みる。これまで海外学会の口頭発表は5回した、ことになっている。経歴詐称でなく、事実である。でも一回目と二回目は大阪と神戸で開かれたし、一回目は院生の頃で発表するだけで必死、二回目の時など誰も非日本語話者が来なかったので、英語のパワポを使って日本語で話した、という寂しい履歴がある。なので、研究者になってからの発表は、2年前の台湾、昨年のイギリスと台湾、の計3回、なのだが、これが見事に大外れ+壁の花、状態だった。
何が大外れ、って、「聞き手は何を求めているか」についての視点が全く欠けていたのである。こちらはとにかく「英語表する」という事に必死になり、「英語『で伝えたい何かを』発表する」という気持ちに欠けていた。いや、正確に言うと、リスナーを普段の日本の学会発表や講演の層と勘違いしていたので、異文化・違うディッシプリンの人にどうすれば『伝えたい何か』が伝わるか、を考えていなかったのである。だから、日本国の障害福祉分野の、さらには極小の事例発表で終わり、so what?(ほんで、なんなん?)という発表になっていたのだ。これは、僕だけでなく、少なからぬ発表者に共通する問題点でもあった。
この大ハズレは、最初は英語が下手だから、と勘違いしていた。だが、2度3度、発表しては大失敗、を繰り返す内に、単に英語の語彙や表現力の問題ではなく、「切り取り方」の戦略ミスである、とようやく気づいた次第である。つまり、先の8箇条のガイドラインに戻るなら、「鍵となるアイデア」ではなく「事例紹介」に焦点化してあるから、その説明だけで時間が経ち、本質まで至らないのだ。具体的な事実からでも、ある程度抽象度を高めた理論なり概念なりに引きつけた話なら、他文化・他分野の人の眼鏡に引きつけて、「そう言えば自分の領域では」と考えられる。でも、相手の眼鏡に開かれた発表でなければ、自分にとっては自家薬籠中のものであっても、伝え手の自己満足の殻から抜け出して、聞き手のinterestにまで届かないのである。
いつものように付け焼き刃的発表なので、6や8にまでは手が回らない。でも、少なくとも肝心の「鍵となるアイデアの切り取りと焦点化」だけは、明後日までに果たしておくとしよう。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。