ミッションを考える

今日の身延線は遅れている。市川大門の花火大会の影響だそうだ。そういえば何年か前、北海道からの帰りの高速バスが、石和の花火大会の終わった直後に突っ込んで、大変な思いをしたことがある。ま、夏は仕方ないよね、と思いながら、亀山郁夫訳の「カラマーゾフの兄弟」を読み始める。昨日今日と大量のアウトプットをしたので、全く別のコンテキストのインプットを心から求めていた事がわかる。おかげで、小説はするすると心に染み入り、僕自身もようやく疲労モードから回復しつつある。それにしても、この二日間は、よくしゃべった。

昨日はあるNPOの将来構想計画について議論する為に、大阪入りする。ドラッカーの『非営利組織の成果重視マネジメント』という自己評価のハンドブックを片手に、そのNPOの使命や顧客、顧客が価値あると感じるもの、などを問い直していく。NPOの専従スタッフと、その現場から多くの事を学び、ボランティアとして関わり続けている若手研究者達による議論。その中で、大きな議論の一つとなったのは、「成果とは何か」であった。これについて、先述のハンドブックでは次のように書かれている。

「何を測定し、モニターするか。どのような尺度が適当か。成功のために欠くことのできないものは何か。非営利組織が自らの成果を定義するために、このような問いかけが必要だ。そのためには、使命に戻らなければならない。自らの能力、働く環境、そして活動分野に関する既存研究や事例について熟考する必要がある。
 第一の顧客の声に注意深く耳を傾け、彼らが誰であり何を価値ある者と思っているかについてのあなたの知識を使って考えてみるといい。つまり、対象の定性的および定量的側面について考えるのである。このような方法で努力すれば、ボトムラインを決めることができ、その結果、組織の何を評価し、判断すべきかがわかってくる。」(ドラッカー&スターン編著『非営利組織の成果重視マネジメント』ダイヤモンド社,p42-43)

そのNPOでは、設立して年月が経ち、今、新たな方向性を巡っての転機の時期にいる。それはつまり、これまでの成果尺度の限界と、新たな成果やゴールについての模索である。更に言えば、顧客についての再定義と、顧客に向けて何を使命として仕事すべきか、の非営利組織のビジョンの見直しそのものでもある。僕自身、その団体から様々な恩恵を受け、現場のリアリティについての沢山の示唆を受け、自分自身の今を形作る上で少なからぬ影響を受けてきた。それゆえに、第三者の外部の研究者、という一歩引いた視点ではなく、大切に引き継ぎたい、守り続けたい叡智・宝をどう捉え直せば、次の20年、30年へと活かせるのか、を我が事として考えている。そして、それを考える場に立ち会えた事の喜びと、社会的責務や使命のようなものも、同時に感じていた。そう、そのNPOの使命について考え直す中で、改めて研究者としての自分自身の使命についても考え直していたのだ。

それは、実は今日の会合にもつながる。今日はこの春からの自分自身の変容に大きな影響を与えてくださったF先生とランチをご一緒させて頂いた。夏休みの高槻西武のレストランは恐ろしく騒々しい空間で閉口しながらも、先生にお話したいこと、伺いたいことが色々あった。自分自身、この半年弱の中で、殻を破り、とらわれからの脱皮を試みつつある。以前は馴染みのあるフィールドに関してはインターアクティブだったが、それ以外の場ではアクティブかリアクティブかの一方通行だった。わあわあと他人事として批判するか、あるいは防御反応的に殻に閉じこもるか、の、二極分解だった。普段の職場や親しくさせて頂いている人はあまり信じてもらえないかもしれないが、僕がインターアクティブであるのは、あくまでも自分が守られていると思う局所的範囲での振る舞いだった。そして、それが自分の可動領域や可能性を狭める、一番の理由だった。

だが、この春以後の変容の中で、ベイドソンやポランニー、モランなどの著作を媒介にしながら行いつつあるのは、自分自身が作っていた殻や壁を取り払う作業であった。社会的立場や役割の鋳型に絡め取られ、自分の論理性の薄さへの引け目から論理的であろうと過度に強ばっていた事も加わって、本来の自分の魅力である「直感に基づく編集能力」に蓋をしていた。それが、昨年から始めた合気道、この半年で実ったダイエットなどの、主に身体の変容によって蓋が開き始め、固着した考えの蓋を取ることができはじめた。もっと様々な分野で、心の強ばりを外し、インターアクティブになってもいいのではないか、と思い始めた。それが、自分自身の「直感に基づく編集能力」を活かすことであり、ひいては自分自身の使命を全うする上でもダイレクトにつながっている、とようやく自信を持って言えるようになってきた。そして、その歩みに背中を押してくださるのが、F先生とのやりとりであったのだ。

そう考えると、この二日間は、強く自分自身のミッションについて考え直す旅であった。電車は15分遅れになったが、花火も見れたし、考えもまとめられたので、結果的には程よい遅れであった。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。