市町職員をエンパワメントするとは?

今朝は快晴の津のホテル。今日は4年目に突入した、「市町職員エンパワメント研修」である。今年のお題は次のとおり。

「障害者制度改革にも柔軟に対応できる市町独自の障害福祉計画を作成するにはどうすればよいか-現状分析、ニーズ把握および困難ケースの対応から計画へつなげるために」
今日はその2回目の研修に当たる。
この三重の研修は、全くマニュアルがない。毎年、三重県庁のチームの皆さんと、その年毎に課題になっている内容について取り組むことにしている。一から内容を作り上げる研修である。4年前から「障害福祉計画の二期計画策定に向けて」→「相談支援とは何か」→「当事者の声を聞くとは何か、本人中心とは何か」とテーマを変えて進めてきて、今年は先祖がえりのように「障害福祉計画の三期計画策定に向けて」の研修である。
3年前からこの研修にずっと付き合って下さっている、ピアサポート三重の代表で当事者の松田さんは、いつも鋭い疑問を投げかけてくださる。
 「なぜ、当事者ではなく、市町職員をエンパワメントする必要があるのですか? エンパワメントが必要なのは、支援者ではなく、当事者ではないですか?」
答えは、半分イエスであり、半分ノーである。
確かに、支援者と当事者の間では、権力の非対称性の関係がある。つまり、支援者側がパワーを持ち、当事者はその権力行使の対象となっている。当事者の側が、それに抗い、自分の意見を言えるようにエンパワメントされなければ、対等な立場に立てない。もちろん、それはそのとおりである。
だが、支援者はエンパワメントしなくていいのか、というと、この4年間の研修で自信を持っていえるのは、その必要が大きくある、ということである。
特に市町の障害福祉担当職員は、数年で移動する。この4年間の研修で、ずっと変わっていない担当の(つまり僕がずっとお顔を知り続けている)方は、三重県内の市町でもごくわずかしかいない。みな、水道局から移動してきて、次は税務に移動する、などの移動職が多い。福祉のリアリティをちゃんとわからないまま、とにかくそれでも仕事を「こなす」ことが出来る方が、やってしまう。こなせなければ、コンサルティング会社に丸投げしてしまう。
あるいは、ちゃんとやりたくても、その方法論がわからないから、障害福祉計画をどう「引き継いでいいか困惑している」という人も少なくない。役所がやる気がない、というのは、他人事的見方だが、役所の職員の内在的論理を見てみると、「やりたくても、何から手をつけてよいかわからない」というのが実際だ。つまり、どういう風に政策立案する事が当事者の役にも立ち、意味のある仕事か、について、一定の方向性を身につけるための支援やエンパワメントを求めている人々の集まりだ、ということに、研修をしながら気が付くようになった。
今日のこれからの研修は、各市町のサービス給付率分析と、二期計画の数値目標の達成率分析から、次の数値目標を考えていただく、という高いハードル。事前課題の内容を見ていると、「給付率分析だけでは地域課題が見えるわけではない」という指摘が出されている自治体があった。そう、それだけではわからない、ということを知るというのも、研修の成果なのだ。つまり、この研修で伝えられるのは、自分の頭で数値や意味内容を分析して、実態に合った障害福祉計画を作るためのモード、に頭を切り替えていただく、批判的・分析的視点を持っていただくための研修なのである。
おかげさまで、市町の中には、そういう批判的・分析的視点を持って、取り組み始めてくださっている自治体が複数出てきた。それをどう今日はうまく支援できるか。
一日はハードだが、楽しみでもある。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。