創発の渦の螺旋階段的拡大

今日の講義で、NPO法人子育て支援センターちびっこはうす理事長の宮澤由佳さんにお話頂いた。彼女の20年に渡る社会起業家の軌跡をうかがう中で、ふと創発の渦の螺旋階段的拡大の姿が目に浮かんだ。忘れないうちに、そのことを書いておきたい。

ここ最近、コミュニティの本を読みあさってエントリーしてきたが、社会を変える渦は、必ず個人の思いからスタートする。しかも、単なる思い、で留まらずに、その思いから仲間が増え、組織的・制度的つながりへと展開していくなかで、一定の自己組織化が進んで行く。宮澤さんのお話にも垣間見えたその渦を、授業中に次のようにメモしてみた。
1,その地域・領域における社会問題、ニーズ、状況の極まりに出会う
2,その問題を他人事して「仕方ない」と思えず、「放っておけない」と自分事になる
3,取り組む仲間を見つけて、解決に向けて行動を進める
4,前途を阻む「壁」に出会う
5,試行錯誤の中から新しいアプローチを生み出し、壁を越え、自らの既成概念や旧い枠組みを超える
6=1’,あらなたその地域・領域における社会問題、ニーズ、状況の極まりに出会う
 (2’以降へ)
ここで肝心なのは、この渦は拡大・深化する螺旋階段のように、その射程範囲と深度を増していく、という点である。1~5段階のプロセスは、ビジネスであれ、行政的課題であれ、あるいはサードセクターの課題であれ、課題を解決するモデルとしては、わりとオーソドックスなフレームであると思う。ただ、社会的起業家に特に特徴的なのは、この1~6の回転、および螺旋階段的拡大のモチベーションが、「もうけ」ではなく、使命やビジョンである点だ。
使命やビジョン、と書くと大げさだが、最初は第六感の大風呂敷(=ほら吹き)かもしれない。でも、その大風呂敷を広げて、次にその広げた風呂敷を実現する為に行動化を伴うために、様々な人々を巻き込んでいく。だが、その大風呂敷は、これまでの体制の中にはなかった風呂敷(=視点、見方、パラダイム)であるがゆえに、当然、制度的枠組みや偏見、先入観などによって、つぶされがちだ。これが、一つの「壁」となる。そして、ここで「もうこれ以上仕方ないかも」という2と同じ危機が訪れる。
このクライシスを、逆に枠組みを乗り越える為のチャンスと捉える事ができるか、が大きな分かれ道だろう。大風呂敷のまま、であれば、ここで風呂敷をたたむ(=仕方ないとあきらめる)方向性にいくかもしれない。だが、すでに多くの人を巻き込んで、フォロワーも増え、イニシエーターはのっぴきならない状態に追い込まれている。その中で、既存の解決方法では思いつかなかった、新しいアプローチ(=視点、見方、パラダイム)を試行錯誤の中から見つけ出すことによって、大風呂敷は、単なるホラから、ミッションやビジョンへと深化していく。それが、その地域・領域におけるローカル・ノレッジとも適合しながら、化学反応を起こす視点であれば、解決策は、思いもよらない新しいイノベーションや創発を生み出し、予想以上の事態が展開していく。そして、このサイクルを回して拡大していく中で、次の壁にもつながる、新たなフェーズに出会う。すると、これは最初の1の段階に戻ったようにも見えるが、前回の1の段階とは、すでに関わっている人々の量も、情報も、コミュニケーションも、そして抱えている事態も大きく前回より広がってより、問題やニーズの極まりも、より深化(深刻化)している。そこから、創発の第二フェーズの渦巻き時期に展開していく。
実は、この拡大する螺旋階段のイメージは、以前から自分の中に内包されていた。だが、それが創発の渦と結びつき、前々回のエントリーでご紹介した5つのステップとも通じる、とは思ってもいなかった。そして、この創発の渦が回転していくための原動力として、前回のエントリーでご紹介した「ともに生きる世界があると感じられること」という共同体の古層=精神とアクセスしていることが必須なのである。ちなみに、宮澤さんにとっては、「子どもが安心して育つ環境作り」というビジョンが、「主婦が世界を変える」という大風呂敷に展開していかれたそうだが、その元々の「安心して子育て出来る環境を作る」ということは、まさに「ともに生きる世界がある」という精神の具現化でもあったような気がする。
こういう風に僕も書き続けることによって、自らの創発の渦を、少しずつ螺旋階段的に拡大しようとしているのかもしれない。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。