パブコメを書いてみた

実家のある京都市が、「京都市不良な生活環境を解消するための支援及び是正措置に関する条例(仮称)(ごみ屋敷等対策条例)の制定について、という文章を出した。いわゆる「ゴミ屋敷」への対応案のようだが、色々問題があると感じた。京都市民以外でも受け付けるようなので、パブコメを書いてみた。以下、貼り付けておきます。
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京都市保健福祉局保健福祉部保健福祉総務課
ごみ屋敷等対策検討プロジェクトチーム事務局御中
山梨学院大学で教員をしている竹端と申します。
京都市出身で、現在も両親が京都市で暮らしております。
今回、貴市の条例案に憂慮の念を抱き、意見を書かせて頂きます。
私は大学で福祉政策を研究しており、精神障害のある方の支援にも研究テーマとして携わってきました。その中で、「ゴミ屋敷」とされるご家庭の問題についても、見聞きしてきました。確かに、ご近所にとっての大きな迷惑になっており、その苦情が今回の条例案の発端になっている、ということも、容易に推察されます。また、沢山の市民からの苦情と、当事者への対応で、板挟みになっている市役所の方々のご苦労も、理解できます。
ただ、今回の条例案を拝見して、最も危惧することがあります。それは、
「ゴミを溜めたり、ペットの糞尿などの被害を、強制的に止めることだけが、本当の解決に繋がるのか?」
という問いです。
既にお調べになっておられると思いますが、同じ「ゴミ屋敷対策」でも、豊中市さんと豊中市社協さんが取り組んでおられるアプローチは、京都市さんの条例案とはかなりアプローチが異なります。それは、まず、その「問題」とされる方に寄り添って、本人の「ゴミを溜めざるを得なくなったプロセス」を伺い、本人との信頼関係を構築した上で、ご本人が納得してゴミを捨てることに同意するプロセスを、時間をかけて構築していく、という点です。この時のキーワードは、「信頼関係」と「納得」です。この2つを作り出すために、社会福祉協議会に配属された「コミュニティーソーシャルワーカー」が、時間をかけて、ご本人のもとを通い続けています。そのアプローチの前提として、「話せばわかる」「相手と対話できるまで、こちらがアプローチし続ける」という姿勢があります。
一方、京都市さんの条例案の概要をみていて、そのような丁寧な関わりをされた上で、それでも応じない場合の措置なのだろうか、という点について、大きな疑問を感じます。行政が指導しても従わない場合は、強制的な命令も仕方ない、というプロセス自体への問いではありません。まず、行政が「指導」するときに、一方的・高圧的にゴミを捨てよ、という「指導」であれば、本人が「納得」してそれに従うのだろうか、という問いです。
一般に、ご近所とのトラブルを抱えたり、ゴミ屋敷となってしまうような方には、「性格が悪い」「人格障害」「発達障害」などのラベルが貼られやすいです。ただ、それは病状のせい、というより、ご本人と社会関係のうまくいかなさが極まって、周囲からの孤立、信頼できる他者の不在、諦めや焦燥感・・・などが重なり、「生きる苦悩が最大化」した結果、、ゴミを溜めるに至った、と私は理解しています。その時、「ゴミを捨てる」ことのみを目的とした「指導」をすることは、ご本人にとっての不信感の増すばかりです。ましてや、強制的な執行をした場合、さらに行政への不信感の悪循環は強まり、ご近所との関係もさらに悪化する可能性もあります。
では、どうすればいいか。
そこで、大切なのが、豊中市さんのされているようなアプローチです。「ゴミを捨てる」ことだけではなく、ご本人が「ゴミを溜めざるを得ない」悪循環構造に入り込み、その悪循環構造からの脱却を、ご本人との信頼関係を構築しながら、作り出そうとされています。「要支援者が自ら不良な生活環境を解消できるよう働きかけ」を本当にしたいと思うのなら、一方的な指導ではなく、まずは本人との信頼関係を構築し、その中で、「生活環境を改善したい」という「生きる希望や自信を取り戻す支援」こそ、必要不可欠だ、と私は考えます。その為にこそ、行政職員さんの叡智を結集し、自治組織との連携の中で、より良い支援体制や支援実践を創り上げていって頂きたい、と願っております。
これらの実践を充分に行った上で、なおも条例が必要な事態が全く変わりない、というのであれば、話は別です。でも、条例案を拝見する限り、そのようなアプローチを充分に尽くされたようには、お見受けしません。
条例は、一旦動き出すと、市民に大きな影響を与えます。まずは、本人との信頼関係醸成を目的にした、ご本人が悪循環から抜け出す「対策プロジェクト」をこそ、して頂きたいと願っております。
それがなされていないなら、この条例案には反対です。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。