ラタトゥーユと276枚

トマトの季節が戻ってきた。
6月頃に見つけた、大学の近くの激安ガソリンスタンドの向かい側の農家が、トマトの販売を再開したのだ。

ここのトマトは、本当に目を丸くするほど美味しい。以前ブログにも書いたが、実家やお世話になった先生に送ったところ、どなたからも大好評。僕自身、毎週なくなる度に買いに出かけていた。7,8,9月はブドウの季節なのでトマトはいったんお休み、で、10月から来春の6月まで、トマト販売を再開される、とのこと。道沿いにたてられた「のぼり」を見つけて、真っ先に立ち寄る。おうちの方がいらっしゃって、割れたトマトもたんまり頂いた。これが割れていても、めちゃくちゃ美味しいのだ。早速今晩はラタトゥーユにしてすり下ろしトマトもたんまり入れる。ハッシュドビーフの素もあるのだが、そんなの必要もない位にコクが既に出ている。今は煮込み中だが、早く食べるのが楽しみだ。昨日韮崎の農協直販所で買った地物のニンニク君達や、土がかぶったにんじんもいい役を果たしている。特に、にんじんは皮をむくと、霜降り肉のような美しい文様が現れた。これが美味しくない訳がない!! 飲み差しの赤ワインもドバッと入れて、豚バラ君も大満足のようだ。いやはや、ほんと待ち遠しい。

で、ついでに報告すると、ほったらかし温泉に再び出かけた。朝早くある方から電話を頂いて目が覚めたので、「どうせなら休みだし、朝の露天風呂に浸かりにいこう」という算段だ。これがまあ、気持ちのいいこと。霧がかかっていてご来光、という訳にはいかなかったが、それはそれでよろしい。幽玄なる霧がかった風景と、目の前のススキ、それを眺めながら朝からぼーっとするのも、また格別である。しかも、休日でも人は少ない。ごくらく極楽。

で、休日に疲れも落としながら、一方でちゃんとお仕事もトボトボしている。先週末に社会保障審議会、その翌日に都道府県の障害保健福祉主管課長会議、が相次いで開かれ、国会で今議論されている自立支援法関連の具体的な資料がたんまり出てきた。社保審の資料で5MB、主管課長会議で12MBである。主管課長会議をプリントアウトしたら、276枚!!!あった。これを読むのか、と思うとゲッソリする。だが、今国会での成立と来春の施行を目指して、この資料から厚労省の本気度が伝わってくる。ぱらぱら眺めるが、具体的に減免措置の細かい規則など、施行規則の大枠につながるものがドバドバ出ている。こりゃあ担当者はしばらく寝ずの作業をしてたんだろうなぁ、と思いながら、1時間近くプリンターが発奮するのを見ていた。

で、それを眺めていて、いよいよこちらのスタンスが問われるな、とも感じる。以前このブログにも書いたが、ハッキリ言って276枚を真面目に追いかけていたら、すっかり厚労省の枠組みに居着いてしまうのだ。これが障害者にとってどういう意味があり、障害者の地域自立生活支援を支援する点でどう問題なのか、をしっかり頭の片隅に置きながら読み込んでいかないと、いつの間にかミイラ取りがミイラになってしまうのだ。そのためには何らかの補助線が必要だ、と感じていた時、近所の本屋でまさにドンぴしゃ、の一冊に出逢った。それが、「社会保障を問いなおす」(中垣陽子著、ちくま新書)だ。

何がドンぴしゃって、この本は、今回の厚労省の改革の裏側にある社会保障全体の改革について、「身の丈にあった」「安心感のある」「不公平感の少ない」「わかりやすい」という4つの切り口から「あるべき姿」を解説している。しかも著者は今は政府系財団の主任研究員だが、平成13年度の国民生活白書「家族の暮らしと構造改革」の筆者でもあるのだ。これを読んでいて、ここ数日紙面を賑わせている診療報酬の改正の問題、介護保険と高齢者医療の相乗りの問題、など社会保障「改革」の問題がまさに取り上げられているのだ。なるほど、この国民生活白書の方向で、今の制度改革が進み始めているのね、という全体像が、この本を読む中で少しずつわかってきた。それと共に、自立支援法案関連の資料を読み込んでいて疑問に思っていた様々なキーワード、あるいは厚労省の切り口も氷解してきた。こういう国策の流れの中で、障害者政策に関しても、経済活力重視と社会保障充実の二つに折り合いを付けられる「皆が仕方ないと納得できるポイント」に落とし込むために1割負担を原則とし、不公平感を和らげる為のホテルコスト徴収、など介護保険改革とクロスオーバーする部分を障害者福祉にも応用し、合わせてわかりやすい制度設計で、何とか制度維持を目指そう、という流れなのだ。

そして、その大きな流れが見えて来たとき、ふと「障害者はこの法案で安心感を持てるのか」という疑問が浮かぶ。つまり、原則1割負担の前提となる所得保障の問題である。障害者の基礎年金6万6000円が安すぎる、という事実に触れないまま、サービス利用料に関する減免措置の議論をしたって、根本的解決にならない。逆に言えば、このポイントを無視して、厚労省の資料をいくら真面目に読んだって、障害者が安心できる社会保障制度への改変へとつながらないのだ。このことを、ちゃんとまとめて伝えていかなければ、と問題点がだいぶクリアに見えてきた。資料を読み込みながら、飲み込まれないように、腹を据えて資料と格闘しよう。でもその前に腹が減っては戦が出来ぬ。そろそろ煮込みも出来てきた。さ、真面目な話はこれくらいにして、美味しいラタトゥーユを頂きますか。でも、ビールかワインを飲んで、このテンションは続くのか・・・。そもそも、276枚を読む気力が残っているのか・・・。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。