連鎖反応とドーナツの穴

ここしばらく、日々の最低限をこなすのに一杯一杯な日々が続いてきた。

一つには後期の授業が始まってまなし、なこと。講義が二内容三コマに増え、新たな予習に追われていること。これで相当時間的にタイトになっている。先週末以来、お腹の調子も万全ではない。疲れもたまり、口内炎もでき、運動する暇もない。なのにデスクトップのスケジュール帳には積み残しの仕事が、日々累積していく。毎日大学に12時間滞在しても、とにかく仕事が片づかない・・・。どこかでこの連鎖を断ち切らにゃ、と思い、まずは今晩、禁酒にしてみた。ここしばらく、ずっと毎日飲んでいたので、一日くらいは休肝しないと、多分身体さんも悲鳴をあげているのだろう。おかげで放ったらかしのスルメを、酔いつぶれずに書くことが出来る。

その一方で後期になって、以前宣言した授業改革が、少しずつ、功を奏し始めている。前期の課題点を変えるために、いくつかの試みを始めたが、それは今のところどれもうまく進み始めている。明確な姿勢と、裏打ちするデータ、それとコツコツとした予習の積み重ね、という至極真っ当な三種の神器を、半年もして、初めて実践できるようになったのだ。そうやって真っ直ぐ学生さんに向いていると、彼ら彼女らからも、少しずつ真剣なまなざしが返る率が高くなってきた。これだから、真剣直球勝負は面白い。まあ、実のところ年期も経験もない僕には、フォークやカーブの授業展開で的確にポイントを突く、という曲芸は出来もしないので、直球しかないのだが、こうして真っ直ぐな言葉、を誠実に伝えているうちに、伝わるものの深さと広さが少しずつ拡大していけば、と願っている。

今日は珍しく会議がない水曜日だったので、少しは自分の仕事も出来る。いよいよ国会で障害者自立支援法の審議が始まるので、関係者とその関連での打ち合わせ。今日の社会保障審議会や検討会での国の説明の強引さが話題になる。厚労省の優秀なるお役人の皆さんも、実のところ、この強引な展開に、本当は困っているんだろうな、と思う。だって、誰が見ても、今度の法案はあまりにもどぎつく、えげつない給付抑制方策が盛り込まれているからだ。これは厚労省単体の問題ではなく、三位一体改革や700兆円の財政赤字の問題などとリンクした「国策」レベルの問題。厚労省の官僚だって、きっと財務省や政府の「国策」命令にサラリーマンとして従わざるを得ないのだろう。ただ、その財務省や政府に物申せる唯一の立場の国会議員が、どうも大政翼賛会なのか、あるいは初当選組が多いからか、この法案の内実をあまりご存じでない(関心がない)方も少なからずおられる、と漏れ聞く。法案に問題点があり、その作成者である厚労省は「上かの指示」と言われ、その「上」のお目付役である国会議員が不勉強や無関心。ならば、この法案に関しては、誰も責任を問わず、誰も責任が取れない中で特別国会でするりと通過するおそれがある。ドーナツの穴のように真空現象が起きているのだ。で、その真空地帯で、結局困るのは、国会議員でも官僚でもなく、地域で暮らす障害者自身。なんちゅうこっちゃ、と思う。

僕自身はこのことに対して、現状を変えるほどの知力も能力も政治力も、もちろんない。ただ、まっとうな議論が、まっとうにされるように、せめて地域・現場レベルでもお手伝いすることくらいしかない。そう思っていたら、偶然、なのかご縁があったのか、今度は東部地区でこの法案の勉強会をしたいので講師に、という依頼の電話を受ける。前回の東山梨地区での講演の噂を聞きつけて、わざわざお電話くださったのだ。山梨は人口が少なくお顔の見える関係が築きやすい分、福祉関係者が地域の人々を巻き込み、そして自治体の担当者や首長も本気になれば、政府の制度を超える地域の豊かさが構築できる可能性がある、と思う。国レベルが「ドーナツの穴」状態なら、せめてその穴を埋める実体は、地域から作っていくしかない。それを、僕レベルでもお手伝い出来るのなら、えんやこら、と走り回ろうと思う。こうやって首をしめるから、またスケジュール帳には未決リストが溜まるのも目に見えているのだが、まあ、「ほっとかれへん」病にかかったタケバタ、いつものように気づいたら走り始めていた。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。