「満たされ」なかった原型

一月は行く、二月は逃げる、三月は去る。

今日、ある先生の研究室でふと思い出したこのフレーズ。まさに、僕の一月はあっという間に「行って」しまった。でも、ジムには行けていない・・・。

言い訳大魔王になりそうなのだがやはり言い訳すると、先週風邪を引いたのが痛かった。年明け、実家から帰った後は週二回のペースが保てていたのに、授業が再開されると、追い込みの授業まとめなのでついついジムに行きそびれ、その翌週には風邪引きが始まり、センターまでに治さねば、と全てを放り出して風邪の治療に当てていると、今週は週末の研究会に向け、以前から懸案になっている報告書の全面書き換えでてんやわんやで・・・結局の所、今月は二回しかジムに行けていない!! これではせっかく払ったお金が大損だ。月末はマメにジムに行かねば・・・。

で、今日はとにかく先述の報告書に一区切りをつけた。まあ、どこまでで区切りをつけられるかはわからないし、土日の研究会で先月同様厳しい指摘をうけまくるかもしれないけれど、前回から持ち越しの問題には一応区切りはつけられた、つもりである。今回は、相当自分の思いや考えを、冒頭部分で書き足し書き直した。これほど赤を入れて、これほど訂正したのは久しぶり、というくらい書きあぐねていた。この間様々な方々にご指摘を頂いて、自分のスタンスが問われている、と感じていた。なので、逃げることも出来ず、正面突破的に、自分がここしばらく抱えている問題意識を、丁寧に書き込み、その上で何が問題なのか、を整理したつもりだ。こうやって、とにかく一区切りつけた文章を前にすると、最近「風呂読書」していた本のフレーズを思い出す。

「テクストを書く人間はあらかじめ自分の内部に自存する『書きたいこと』を文章にして伝達しているのではない。自分が『書いたこと』を読んで、自分が『何を書こうとしているのか』を知るのである。『言いたいこと』は『言った』あとに遡及的にその起源に想定されるばかりであって、決してそのままのかたちで取り出すことができない。(中略) 『ことばになる前のほんとうに言いたいこと』というのは、私たちがことばを発した後になって、『ほんとうに言いたいことに言葉が届かなかった』という『満たされなさ』を経由してしか現れない。それは、『いま語ったのは、私がほんとうに言いたいことではない』という否定文のかたちで、欠性的に指示される以外にありようのない幻想的な消失点である。」(内田樹「女は何を欲望するか」径書房、p119-120)

内田氏の言うとおり、前回の研究会で厳しく指摘された文章は、「ほんとうに言いたいことに言葉が届かなかった」という「満たされなさ」に満ちたものであった。指摘される様々なコメントに、「もっともです」と頷きながらも、「でもそうやないねん」と叫びたくなる自分がいた。確かに書かれたものだけみれば、何の弁解のしようもない。でも、そのテクストが批判されるなかで、「いま語ったのは、私がほんとうに言いたいことではない」という否定文をどれほど言いたかったことか。そういう辛い場面があったおかげで、でも、僕はいったい自分が「何を書こうとしているのか」を、その研究会の後に、徐々に知るようになってきた、と思う。まさに、「『言った』あとに遡及的に想定」された何かを追いかけて、先月からずっと必死になってもがいて来たのだと思う。

こういう満たされなさはすごく辛いけど、でも、自分が言いたくても書くことを思いつかなかった様々なフレーズが、特にこの二週間くらいで色々出てきた。それを書いているうちに、結局以前書いたもののうちの半分以上を捨て、その上に一昨日から今日にかけて新たに半分くらい書き加えたから、先月の研究会で出したものは、結局原型をとどめているのがわずかで、全面的にリニューアル、という代物になってしまった。でも、それはそれでいいとおもう。あの、結構きっつく批判された「原型」があったからこそ、そこからの七転八倒、苦悶のはてに、今の文章へとたどり着けたのだ。まあ、僕は知識人が持つべき、「まず自分を疑う」という健全なる態度をあまり持たず、自分に甘あまなところが多い。なので、それを他人にご指摘頂いて、目覚めたら、ちょうど差し引きゼロだ。そんな風に楽天的に見ている。本当は土日に何を言われるか、で実はビクビクしている部分もあるけれど、その時はそのとき、と開き直って、明日からの出張に備えて早く寝ようっと。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。