あっという間に・・・

 

7月も気がつけば怒濤のごとく過ぎていった。

6月末も〆切に追われていたが、今月も輪をかけるように〆切があったような気がする。
詳しくは覚えてないが、講演のレジュメやら、査読論文やら、法律の翻訳やら・・・慣れない仕事が多いが、とにかく出来ればやってしまいたい、エイヤッ、と力づくでいろんなことに体当たりしてきた。

思えば事の発端は、数ヶ月前のこと。恩師の先生に、「ちゃんと調査で調べたものにはキッチリと片を付けてから、次に進みなさい」と言われたことに端を発する。それまで、海外に何度も調査に行くが、その割にアウトプットが少なかった。きっちり調べきり、一つの作品に仕上げるまでに、次のことに興味が出てしまい、なので現地で仕入れたネタを、腐らせる、とは言わないまでも、ちゃんと昇華(消化)しきる以前に、放ったらかしていた部分も少なからずある。「10取材して1を原稿に出来たら良い方だ」とは、ジャーナリストの指導教官の発言だが、僕の場合は、「1を原稿にする」ということすら出来ていない取材もあった。なんと、もったいない、というか、罰当たりな。なので、今回は粘りに粘って、その「1を原稿にする」というのを、何とか産み出そう、という産みの苦しみの7月だったのだ。

おかげさんで、結果として、カリフォルニア州の精神保健福祉政策と財源問題をある査読に出し、同じくカリフォルニア州の隔離拘束の最小化に関する法律の翻訳をある雑誌向けに載せてもらう手はずが、とりあえず整った。しんどいが、今月「二つの借金」を一応返済した気分で、今すこしすっきりしている。前者も面白いが、後者の法律の翻訳も結構面白かった。どんな内容か、というと・・・翻訳の前につけた、説明文をはっつけてみよう。

「この法律は、州立精神病院や障害者入所施設などにおける違法な隔離拘束による人権侵害事例を調査してきた公的権利保護・擁護機関(PAI)に所属する弁護士が、人権侵害の再発を防止するために作成に関与した、という点が大きな特徴である。そのため中身も、最も危険な拘束技術の禁止や、隔離拘束後の評価・報告聴取の実施、一つ一つの隔離拘束事例の記録化とその報告義務、集められたデータの情報公開、そして隔離拘束に関する技術指導やトレーニングプログラム開発など、隔離拘束を減らすための具体的な取り組みが定められている。今後の我が国における精神科病院や障害者入所施設での隔離拘束の最小化の取り組みに際して、この法律から私たちが学ぶことが出来る点は多い。」

どうです? 面白そうでしょう? え、マニアックだって? いやいや、真理は細部に宿る、ですよ。今回、この法律を作った弁護士に実際にインタビューしていたので、一文一文の法律を、大変よく噛みしめながら、訳すことが出来て、すごく面白かった。彼女はこういうことを意図しながら、こういう目的で、このセンテンスを書いたんだろうな。そんな推測を交えると、無味乾燥に見える条文も実に彩りをましてくる。というか、この条文自体が、ナース兼弁護士のPAIの弁護士の想いが一杯詰まっており、読み込めば、すごく魅力的な内容である。ご興味のある方は、是非とも9月発売の「季刊福祉労働112号」(現代書館)をお楽しみに。ついでに、110号と111号の二号連続で、そのカリフォルニア州の精神保健福祉政策や訳した法律の概要をご紹介しているので、そちらもよかったら読んでみてくださいませ。

でも、実はまだ7月末〆切(だけれど少しはのばせそうなもの)が二本、残っている。とある教科書に載せる「精神科ソーシャルワーカーの意義」についての原稿と、紀要に載せる予定の「精神障害者の権利剥奪の現状について」。7月に書いたものといい、予定の二本といい、久しぶりに「精神」モードの原稿をあれこれ書いている自分がいる。

夏休みは、このままではまとまった休日が取れなさそうだ。でも、原稿を書きながら、最近、少しずつノって、楽しんでいる自分がいることを発見している。何年か越しに考えていたテーマも、形を変えて、また原稿にしよう、という意欲もわいてきている。これまで現場で見聞きしたことも、調査で色々感じたことも、その多くをため込んで、アウトプット仕切れていない自分がいた。全てをアウトプットすることは不可能だけれど、出来る限り色んな方面から、様々な媒体を使って、とにかく書ける限り書き進めてみよう、そんなことを感じている7月末であった。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。