五箇条の類似性

 

気がつけば10月おわり、カーラジオからは「後二ヶ月で今年も」という声が聞こえてくる。今日の甲府はめちゃんこ寒くて、最高気温が15度程度。車の暖房もこの冬初めて強めに入れた。

まあこの1週間も、目の回る一週間、そのものだった。1週間前の三重の研修は、満足もして頂いたが、次回に向けての課題もてんこ盛りだった。「現場の人に、明日から役立つ研修を」をテーマに、東京のMさんと神戸のOさんのお二人のゲストにも助けて頂きながら、の研修なのだが、設定した課題「困難事例から福祉計画へ」という設定が高すぎたため、なかなか求めるゴールにたどり着かない。受講生の質がどうの、という話ではない。時間が足りなさすぎる、ということが、この研修の中で明らかになった。本来なら3日くらい、じっくり時間をかけてやるべきなのを、2日分でやろうとするから無理があるのだ。

そう言えば、スウェーデンで行政職員の研修の機会を垣間見ることがあった。以前、グルンデンの知的障害当事者と支援者が介護の専門学校で講演するのを聞きに出かけた時のこと。あれは海の近くの快適なホテルか、セミナーハウスのようなところ。広々とした空間でくつろいだ雰囲気。1時間半に一度は必ずコーヒーブレイクの時間があり、お昼は昼食会場で結構豪華なお昼ご飯を食べた。そういうリラックスした空間だからこそ、普段とは違う気持ちで、新しい研修内容もすっと頭に入ってくる。だが、時間的にもキツイ講義+演習を、詰め詰めの会場でやっていると、集中力が続かず、文字通りの「酸欠状態」になってしまう。帰り、東京駅でMさんと別れた後、言いようのない疲労に襲われていたのだが、多分にこの物理的・時間的な制約に起因するところが少なくない。(もちろん研修のデザインの問題もあるが)。そんなことを考えていた時、ふと浮かんだのが、先に挙げたスウェーデンの研修風景だったのだ。やはり、研修デザインは、余裕を持ってやらなきゃね、と肝に銘じていた。

で、土曜日は少しは休めたのだが、日曜日から再びドタバタが再開。日曜日は研究室の外は学祭真っ盛りだが、こちらは火曜の二コマの講義準備に追われる。というのも、月曜日から障害者相談支援従事者研修が始まったからだ。月曜はしゃべり手でもあるが、僕自身、昨年同様企画側にもまわっているので、1回を除き5回のシリーズ、全部に立ち会う事になる。すると、月曜日はこの後ジムに行ったらすっかり夕方。火曜日は2コマしたあと、2組のお客様を迎えたら、これでタイムアウト。水曜日は逆に3コマ授業をして県庁で今度は高齢者の主任ケアマネの研修のために、キーパーソンとなって下さる方との意見交換会。これも結果的に4時間くらいかかって、県庁を出る頃には外は月夜。で、木曜日は授業の後、夕方今度は東京へ。しかも、電車の中ではパタパタPCにかじりついている。そう、文科省関連の来年度の研究費申請の学内受付が、今日金曜日の〆切なのだ。日曜日あたりからボチボチ取りかかったが、形にするには時間がかかる。結局ここ数日、毎朝5時起きでキーボードを叩きまくって、何とか今朝、提出。やれやれ。

とはいえ、今日も一日、行事が目白押し。午前中は地域移行に関する県のお仕事があり、終わるやいなや県民文化会館へ。社会福祉協議会の総会があり、その後「ミニ講演」が出番だったのだ。で、今回「ミニ」な理由は、私の前に、高齢者劇団の方々による「リフォーム詐欺」のコミック劇があり、その解説編で権利擁護課題をお話しする、というお仕事だった。そこで、演劇中に、騙す側が相談しているシーンで使われた「リフォーム詐欺の心得五箇条」がなかなか心憎い。その五箇条とは、確かこんな感じだった。

その1,人のよさそうな家を狙う
その2,丁寧な言葉と笑顔で接近する
その3,相手の気づかない点を指摘する
その4,時々専門用語も使う
その5,小さい仕事をやって、段々大きな仕事へと変える(次々販売)

この五箇条を見ていて、ふと気づいた。これって中途半端な研究者だってそうかも、と。

相手の気づかない点(その3)を、時には専門用語を交えて話す(その4)のは、この生業の得意技。でも、実力がない人は同業者には見透かされるので、なるべく包容力の多い素人相手のごまかしになりがちとなる(その1)。自分に自信がないから、勢い必要以上に丁寧な言葉と笑顔で接近する(その2)。で、小さな仕事でつけいる先を見つけたら、徐々に大きな詐欺的仕事に発展する(その5)。詐欺商品が、住宅改造という実物か、理論なり研修というパッケージなのか、という違いがあっても、笑えるほど、類似点がある。僕が、「研究詐欺」になっていないか、そのチェックを自らの方に向けると、何とも覚束ない

「研究詐欺」にならないためには、当たり前すぎて愚問だが、「新たな勉強をし続けるのか?」がまさに問われている。忙しくても、何とか勉強の時間は確保しなくちゃ。そう思いながら、日々の「緊急」課題に囲まれている。その中には「緊急だが重要ではない」仕事も含まれているのに、緊急モードで対処するうちに、「急がないけど重要」という課題(例えば上記の勉強など)がすっぽり抜けてしまいそうなのだ。あぶない、あぶない。

時間がないのを言い訳に色々したいけれど、それを言っちゃあオシマイだ、と改めて感じながら、劇団のお芝居を舞台袖から眺めていた。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。