現場と研究と

 

今朝も三重にいる。いつもの駅前のホテルだが、今朝は5度目にして初めて、海側ではなく山側の部屋。雨の津の街を眺めていると、甲府とも京都とも違う、町並みから田んぼ・林、そして山並みへと続く風景が実に面白い。

さて、今日は以前から何回か事前打ち合わせをしていた、市町村職員エンパワメント研修の当日。お題となっているのは、「「『困難事例』を福祉計画にどうつなげるか」。福祉の現場では、都会や田舎に限らず、全ての問題が円満に解決されるわけではない。むしろ、現状のその地域の社会資源や支援体制の中では「解決」が「困難」な「事例」が少なくない。そういう『困難事例』に対して、「しかたない」「不幸ですね」と個人のせいにしているだけでは、何も問題は解決されない。そういう「困難事例」に接している市町村の福祉担当職員が、何を「困難」に感じているか、どうしたら「困難」を克服できる「解決」案が出せるか、について、これまであまりも学ぶチャンスがなかった職員もない。そこで、上記のような研修にいたるのである。

で、実はこの研修は、最近の竹端の「困難」な挑戦に直結している。来月の台湾の学会で、この「困難事例」を市町村行政がどう克服できるのか、について話してみよう、と慣れない英語を必死に格闘していたのだ。英語で「困難事例」に近い表現として、“wicked problem”というものがある。辞書を引くと、「たちの悪い問題」。あ、なかなか解決出来にくい、そういう「たちの悪い問題」ってあるよね、と文献を探していると、出てくるは、出てくるは。なるほど、どこの国の現場でも、定型化されない、○×でマニュアル化出来ない問題といろいろ戦っておられるのですね。

というわけで、現場での研修と、研究をくっつけて考えてしまっているので、本当にうまくいくか、が非常にハラハラするけれど、でもおもろい。いや、おもろいんだけど、結構しんどい、と言えようか。どっちも方向性を見いだすための、模索のまっただ中にいる。ただ、ありがたいのは、現場には援軍が沢山にて、今日の研修も県内外の応援団で「チーム三重」を創って活動できる点だ。そういうfront lineの現実を、どう論文として多少は普遍的に伝えられるか。その中に、現場の「困難」の生の現実をどれほど織り込めるか。このあたりが課題だろう。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。