研修の5つのステップ

 

先週30度の世界にいたとは思えないほど、日本は寒いし、タケバタは目まぐるしい。

帰国日の水曜日は甲府まで戻ってスーツケースを家に置いたら大学に戻って臨時ゼミ。木曜日がちょうど昭和町で「学生議会」。我が2年ゼミ生が二人議場で質問するので、その予行演習が必要だった。予行演習をして、心を込めた質問をする為の練習をみっちりしたので、カトウくんもカミジョウさんの二人とも、実に立派な発表をしてくれた。木曜の質問の後、何人かの関係者の方々にも褒めて頂き、ゼミ教員としては一段落。

その後木曜夜は大学で最低限の火曜の授業の準備。というのも、金曜日は一日山梨県でケアマネ研修に立ち会い、その後講師の北野先生と一緒に京都まで戻り、夜10時半から西大路駅までナカムラ君と久しぶりにウダウダ。土曜日は絶対に外せない大阪精神医療人権センターのシンポジウム。その後懇親会打ち上げと続いて、翌朝は三重へ。来週も三重なので、月刊ミエから、週間ミエ状態だ。来週の研修のための打合せをみっちり5時間ほど行い、ワイドビューふじかわ号の人となる。そして、今回もまた、ふじかわ号読書で、実に多くの刺激を受ける。

「安定状態から集団を活性化するために、『揺さぶりのマネジメント』が必要とされる。集団を揺さぶり、安定の眠りから覚醒させ、そして新しい方向へと導くためのマネジメントである。そのためにしばしば必要となるのは、次のような五つのステップだと思われる。
かき回す(あるいは、ゆらぎを与える)
切れ端を拾い上げる
道をつける
流れをつくる
留めを打つ(あるいは、仮り留めを打つ)」
(伊丹敬之『経営の力学』東洋経済新報社、p29)

三重で「チーム三重」の皆さんと共に作り上げようとしている市町職員エンパワメント研修が、まさにこの5つのステップであり、かつここしばらく苦労して、日曜の午後にようやくたどり着いたのが、の事だったので、「留めを打つ」という発言には思わず「その通り!」と叫びそうになった。そして僕が従来型の研修で物足りなかいと感じていたことも、この5つのステップの中に書かれているので、深みを感じてもいた。

講演で呼ばれて、僕はアヤシイ人間なので、どこでもだいたい「かき回す」。しかし、その一回こっきりでオシマイなので、単に「あいつはかき回しやがって」でおわりがちだ。思えばそれ故にしばらく干された領域もあったように最近伺っている。ま、干された本人は無頓着なのであまり気にしていなかったのだが。で、山梨でも三重でも、連続研修のコーディネート側に回り始めて、一番力を注ごうと気にしているのが、この以後のステップだ。そこで、以後はだいたいどの研修でも大切にされているが、ここで肝心なのはの「切れ端を拾い上げる」というステップだと思う。この点について、伊丹氏はこんな風に書いている。

「かき回された人々がやり始める様々なことの中から、きらりと光るもの、その組織のあるべき姿を示唆するようなことをマネージャーが取り上げることである。切れ端とは、現場の小さな提案であり、試みである。それをマネージャーがわざわざ拾い上げることによって、その切れ端が象徴するような方向こそが組織全体が進むべき方向であることを、マネージャーが示していることになる。そればかりでなく、その拾い上げられた切れ端をそもそも作りだしたメンバーの立場からすれば、『こういう切れ端を持って行けば取り上げてもらえるのだ』という刺激にもなっている。」(同情、p30)

そういえば、金曜の山梨の研修で、三田優子さんが堺市の自立支援協議会の成果を話して下さっていたが、まさに三田さんもこのを重視しておられた。現場のワーカーさんや当事者達が大切だと思うことを取り上げ、それを深めるための助言をしておられる。これは、後々の「道をつける」ための大切な「切れ端」であり、それを協議会座長として、メンバーと一緒になって拾い、深める営みをしておられるから、変革が起こり始めているのだろう。

三重の研修でも稚拙ながら模索してきたのは、こののステップだった。二回目の研修で参加者の声を聞きたい、と当日研修に参加している3人のベテランワーカーに「インタビューする」ということをやってみた。これが、多くの参加者にとって、大きな転機になりはじめる。自らのピアの立場の他の行政職員の中に、これだけのことをやれている人がいる、という気づきは、外部者から「揺さぶられる」だけでなく、「その切れ端が象徴するような方向こそが組織全体が進むべき方向であることを」自分自身で気づくきっかけにもなったのだ。

ゆえに、それ以後の研修で「道をつけ」、「流れをつくる」過程も自ずと決まってきたし、しつこいタケバタは、拾った「切れ端」をしゃぶり尽くすように使い、発言して頂いた方も企画側に急遽合流して頂き、一緒にデザインをしてきた。そして、研修以外に3回三重に足を運んで打合せで苦しみながら、昨日の夕方、ようやく「留めを打つ」目処がついたのだ。

さて、今日は山梨でケアマネ研修3日目。金曜日に三田さんと北野さんという強力なコンビで「揺さぶり」は十分にかかった。今日の「ケアマネジメントの展開」を通じて、どう「道をつける」ことが出来るか、が問われている。そういう展開になるように、意識して出かけなければ。そんなことも気づかされた、有り難い一冊であった。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。