現象とパターン、そして構造

あけましておめでとうございます。

2014年、最初のブログです。今年もどうぞよろしくお願いします。
年始は急ぎの原稿やゲラチェックをした以外は、ゆっくりと読書をして過ごした。特に年末京都で買い求めたある本が、僕自身の「個性化」プロセスにとって、すごく重要な一冊となり、同じ著者の本を何冊か読み続けている。その話は少し熟して来たら書くとして、今日のテーマは、年末にある自治体担当者と、表題を巡るやりとりをする中で、考えていることなど。
とある自治体で、地域福祉計画策定に向けたアドバイザーとして、お手伝いさせて頂いている。その中で、障害、高齢、児童という領域を超えて共通する課題を整理し、人材育成や権利擁護ネットワーク形成、あるいは地域活動の活性化などをテーマにした部会を作り、関係する人々による議論がスタートしている。
その際、領域横断的な課題をどう抽出したらよいか、を事務局との打ち合わせの際、質問された。これはこの現場に限らず、地域包括ケアシステム構築のアドバイザーをしていると、少なからぬ現場で尋ねられることである。
「個別の事例分析は得意でも、そこからどう地域課題を抽出したらいいのかわからない。」
こういう質問を受けるたびに、表題の三つのキーワードを用いて説明している。それは、たとえば徘徊とか「ゴミ屋敷」など、目の前の現場で生起している現象の背後に、どのような共通するパターンがあるか、を見抜き、その背後にある構造を探るなかで、個別課題は地域課題に変換可能だ、という整理である。事務局会議でも同じ事を話したところ、優秀なる担当者Kさんは、こんな甲州弁で整理し、事務局便りとして出してくださった。
「それぞれの立場から見えることや、実際に地域のなかで起きている困りごと(ケース)を出発点として、議論を掘り下げていきましょう。
 ①今、何が起きてるずらか、何に困ってるらか?(現象)
 ②「現象」を並べてみると共通点は何ずらか?(パターン)
 ③そもそもなんでほうなるでぇ?背景は何ずらか?(構造)
 ④よその部会の話ともつながるじゃんね(互いの交通整理)
上の視点でおおまかな表を作ってみましょう。」
甲州弁は難しいですねぇ(^_^)
それは、さておき、ただ、実際に作業部会で議論をしてみると、この「現象⇒パターン⇒構造」の整理が難しいという意見も出てきた。特に、パターンと構造の違いがよくわかからない、と。そこで年末、さらにコメントを求められた僕は、こんな風に整理してみた。
「パターンと構造の違いは何か。パターンとは一つの領域の中で起こっているもの。構造とは一つの領域を超えて、他の領域にも関係している課題。働く若者、子育て世代、高齢者の各々の領域における現象の背後にあるパターンを整理する中で、全ての世代に共有できる課題の構造が抽出できる。そんな関係性です。」
こう整理した後、仕事納めの日、件の担当者Kさんから、さらに鋭い指摘を頂いた。
「この例を作っていた渦中の自分たちもそうでしたが、『パターン⇒構造』の整理は、一方向的に順序よく行えるものではなく、ブレーンストーミング的に、表層の現象を掘り下げ、『これってつまりどういうことでしょうね?』『なんでそうなるんでしょうね?』の議論を十分に発散させたうえで、最後に整理していく、という方法のほうが現実的なのかな?とも思いました。」
す、鋭い! Kさんの方が、僕より遙かに本質を突いている!!!
そう、Kさんの指摘するように、パターンから構造を抽出するのは、一方通行の話ではない。KJ法の考え方を応用するならば、ばらばらに見える現象の中から共通するまとまりを見出し、それにわかりやすいラベルを付けるのが、パターン化。そして、そのパターンを並べながら、各々の関係性を整理する中で、構造化を果たしながら中見出し、大見出し、そして表題を付けていくのが、抽象化であり、構造化である、と言える。そして、その際に、常に仮説という見通しを立ててパターン相互の関係性を整理しながら、こうも言えるのでは、ああも言えるのでは、と考え合う中で、その仮説を書き換え、より説得力ある構造を見出していく。それが、データに基づく課題抽出の王道である。その際、常に「これってどういうことか?」「なぜそうなるのか?」と問いかけ合いながら、お互いが納得できる整理を見出していく。そういうプロセスが、「現象⇒パターン⇒構造」の整理の醍醐味ではないか。
実はこんな簡単なことに気づいたのは、今ブログに書き付ける中で、上記のKJ法の説明の図を見ながら、思い出したことだった。こういう「道具箱」を作って頂けると、話が早くて助かりますね。
僕は博論でもKJ法に基づいて117人のインタビュー調査を整理した経験があるが、その際大切なのは、常にデータとの絶え間ない対話、だった。ここで言い直すなら、目の前の現象というデータが、何を意味しているのか。他のどの現象(データ)といかなる共通点があるのか。これを、ずっと様々なデータを眺めながら、整理していった。このプロセスは、パターンを見出し、構造化していくにあたって、ずっとし続けたことであった。
社会福祉の現場で生起している現象に基づき、政策課題という構造として提示する。この際、現場のリアリティと、政策言語はしばしば乖離しやすい。現場から見れば、政策言語はあまりに一般的過ぎて、現場のリアリティを踏まえていない、という諦めになる。一方、政策担当者から見れば、現場で生起している現象を、どのように政策に落とし込んでいっていいのか、それが何を意味するのか、を理解するのが難しい。これが、福祉現場と福祉政策のつながりが持ちにくい、最大の要因の一つである、と僕は感じている。
その際、僕のようなプロセス・コンサルタントに求められている最大の役割は、現場のリアリティと政策言語の双方をきちんと有機的に結びつけること。その為に、現象に潜むパターンをあぶり出し、そこから構造化をするお手伝いをすること。また、そのプロセスも含めて言語化していくことで、現場で考える上で使える「武器(=考える素材)」を沢山提供し、現場に役立てること。
僕はここ数年、障害者自立支援協議会や、障がい者制度改革推進会議、そして地域包括ケアシステム構築など、いろいろな現場で関わってきているが、結局僕が得意であり、出来ることであり、社会に求められていることは、現場で生起している、しばしば絡まり合った糸をほぐし、その現象の背後に潜むパターンを探り当て、そこからその現場で成功する解決策を構造化の形で、現場の人と一緒に探りあてていく、そんなプロセス・コンサルタントなのかな、と思い始めている。
新年最初のブログにあたり、今の自分の立ち位置の確認的な内容になった。今年は、さらに進めて、ミンデルさんがディープ・デモクラシーの中で述べていた、サイコ・ソーシャルアクティビストへの道が目指せるかどうか、さらなる修行に勤しみたいと感じている。
そのプロセスや試行錯誤も、このスルメに書き続けていくつもりです。今年もこのスルメに変わらぬご愛顧を、よろしくお願いします。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。