「忙しいから絵(ビジョン)が描けないのではなく、描けないから忙しいだけだ」
このキャッチフレーズが売りの、金井壽宏著、「組織変革のビジョン」(光文社新書)を読む。
実に多くの文献レビューをちりばめながら、そのエッセンスをタイトルである「組織変革のビジョン」へと織り込んでいく著者のスタイルは、研究本と新書の間、という雰囲気で、大変僕には興味深かった。博士論文調査で、福祉現場で働くソーシャルワーカーがどう変革していったか、を117人インタビューから明らかにしていった僕にとって、ビジネス世界での「一皮むける」体験をどう組織変革に応用したか、に言及する著者の分析は、実に様々な場面で相通じる部分があった。科研研究では、この博論時代からの問題意識をもう少しきっちりまとめたい、と思っているので、早速著者が紹介してくれた参考文献のいくつかを注文したり取り寄せる。また、その後同じ金井氏による「仕事で『一皮むける』」(光文社新書)も読み始める。こちらも実に面白い。しばらく金井本を読みあさってみよう、と思う。
博論執筆当時、福祉現場のことを調べながら、どうも自分の研究対象に類似したことを福祉分野で調べている人がない、と孤独感に陥っていた。でも、金井氏の著作などを通じて、経営学の分野では、この「個人変革→組織変革」の研究には実に深いバックグラウンドがあることを思い知らされはじめている。博論を書く中で抱き始めた問題意識に、ぼっと火をつけてくれるような本との出会いは、実に嬉しいが、一方でしばらくペンディングにしていた課題がいよいよ目の前に迫ってきてしまった。だが、博論を書いていた専業主夫時代とは、比べものにならぬほど、時間がタイトになりはじめている。
ここで、冒頭の箴言を肝に銘じなければならないのだ。「忙しいから絵(ビジョン)が描けない」は言い訳にならない、と。ビジョンを描けば、忙しくても何とか達成できるはずだ、と。金井氏の著作によって少しずつ見え始めた新たなイメージ。忘れないうちに、とにかくイメージがビジョンという形で言語化できなくてもいいから、まずはデッサンでも良いから、描き始めてみよう、そう思い始めている。