本気の確信犯!

新年最初の投稿は、いつも魅力的な本をどんどん出されてご恵贈くださる勅使川原真衣さんの新刊の書評から。観察の達人として例に出されたのが、あのコナンである。

「コナンくんは過去のパターンやセオリーではなく、目の前のことをよく観察して、そこから仮説を立てます。その始まりはいつも、『あれれー?』と、気づいたことを半分とぼけながら伝える振る舞いなのです。」(勅使川原真衣『組織の違和感:結局、リーダーは何を変えればいいのか?』ダイヤモンド社、p33)

そう、やっぱりコナンなのだ。実は僕もコナンの観察に基づく関連付けとか、アブダクションの達人であると書いていたので、我が意を得たり、である。かれは、違和感を誤魔化さず、それを相手の本質の理解の前提にする。名探偵テッシーも同じである。

「あれ、さっきまで『イライラ』という言葉を使っていたのに、今、急に表現がかわりましたね?」
「あれ、さっきから何度も足を組み直してますね?」
「あれ、もうペットボトルの水が空っぽですか!」

名探偵テッシーは、犯人を捜すのではなく、組織コンサルタントである。その組織の中でのチームワークの不全感の正体を探り、関係性を変えていく支援や介入を行う事で、組織のパフォーマンスと働く人々の満足感を高めるお手伝いをしている。そのとき、「問題とされる人(Identified Patient: IP)」と向き合う際にも、噂や先入観、他者の評価を鵜呑みにせず、じっくり観察する。その中で、相手の内在的論理を探ろうとするのである。

その上で、職場の中で「出来ない奴」「話のわからない奴」とラベルが貼られる人に対して、以下のように喝破する。

「これまで約2万人の働く人たちと接してきましたが、その経験から私は『ちゃんとやっていない人』が職場にいることが問題なのではなく、その職場の『当たり前』『ちゃんと』『普通』が一体どういう言動なのかを言語化できていないことこそが問題だと確信しています。いけしゃあしゃあとそんなあいまいな言葉で他人に評価目線を注ぐのであれば、こららの言葉をどれほど解きほぐし、いろんなメガネをかけたメンバーにわかるように伝えたのか? これこそを振り返るべきです。」(p62)

実は名探偵テッシーの本領は、人物観察に基づく上記の本質を射貫く発言である。「問題とされる人(Identified Patient: IP)」が問題なのではない。その人を問題・悪魔化することで誤魔化している背後にある、「その職場の『当たり前』『ちゃんと』『普通』が一体どういう言動なのかを言語化できていないことこそが問題だ」という構造を見抜いているのである。僕がテッシーと価値観が似ていると勝手に親近感を抱いているのは、彼女は問題を個人化せず、その背景にある社会構造の問題を射貫く。

その上で、この本についてテッシーは確かラジマガコラムか何かで、「商売あがったり」になるほど自分の仕事の秘訣を公開している、と述べておられたが、確かにこの本の中では、彼女がどんな風に「問題とされる人(Identified Patient: IP)」を観察した上で、その本質を見抜こうとしているのか、のいくつかのネタを公開してくれている。

例えば僕は腕を組んだら右腕が下、手の指を組んだとき左親指が下、の左右脳で、ソーシャルスタイルは人への関心が弱くて、あけっぴろげであるドライバータイプである。このようなタイプ分析を紹介しつつ、それは自分だけではなく、他者を観察していても、発言内容や表情などから読み取ることが可能であると指摘する。本書では簡単な・しかし強力な自己・他者分析ツールをご紹介くださりながら、まずは以下の順でやった方が良い、と指摘する。

①自分の解釈のパターンを知る
②相手の解釈のパターンを知る
③それらを踏まえて、組み合わせる

ここで大切なのは、まずはさっきの解釈枠組みを自分に当てはめて、自分自身のパターンを知ることである。その上で、観察に基づいた相手のパターンを知り、相手と自分の関係性や組み合わせを考える、という重要性である。

そして、関係性をうまく組み合わせるために、以下の視点が大切だという。

・自分の感情に流されず、相手の解釈のクセを淡々と「観察」できているか?
・決めつけず(良い悪い、けしからんなど抜きに)相手の考えをいったん受け止められているか?
・とはいえ、相手の言動が業務の目的にそぐわない場合は、「相手に伝わる言葉で」どうにか働きかけて調整する必要があるが、有効な質問・フィードバック・共感・傾聴など使い分けができているか?(p197-199)

これは相手のことを知った上で、相手との関係性を考える上で、決定的に重要なポイントだと感じる。なぜなら、僕が人間関係で失敗したとき、大体この三要素が出来ていないからである。まず、むかついたり腹がたつ、という感情に流されると、冷静な観察が出来なくなる。その上で、相手の考えを早々に決めつけやジャッジしてしまうから、話が拗れる。そのうえで、「相手に伝わる言葉」ではなく、「自分が言いたい言葉」で相手にフィードバックするから、ますます悪循環が高速度回転してしまう。

ゆえに上記の三点は、自分を知り、相手を知った上で、関係性を好循環に導く上で、決定的に重要なポイントなのだ。

「結局、リーダーは何を変えればいいのか?
それは、相手ではなく、決めつけてしまう自分こそ変える、ということです。
そして、やるのは環境の調整だけ。そのためには、『違和感を持ったら立ち止まる』ということに尽きます。」(p272)

相手ではなく、決めつけてしまう自分こそ変える、これは昨秋以来、ぼく自身が自分の内的自己と向き合う中で、ずっと考え続けていることである。他者との葛藤が最大化した際、他者を悪魔化・問題化しても、何も変わらない。そうであれば、「決めつけてしまう自分」こそ、客観的に観察し、そこにどのような課題や問題があるか、を冷静に観察(自己分析)したほうがよい。それに基づき、自分の変容課題を理解出来れば、他者との関係性が変わる。そして、そういう風に、自分をアップデートすることが、他者との関係性のアップデートの要にあるのだ、と勅使川原さんは、関係性変革の極意を、惜しみなく伝えてくれているのだ。なんて、ありがたい!

その上で、本書を「ダイヤモンド社」で出す意義について、以下のように書いているのが、非常に味わい深い。

「能力主義の代案はなかなか受け入れられません。むしろ、経済的格差の進行を背景に、ますます強固になっている節もあります。
どうしても、勝者の側から意識を変えてもらわないといけない。
だからこそ、今ここで社会的に優位な立場にいる人に向けて、自分の商売道具を公開してでも、ビジネス書、中でもその『総本山』ともいえるダイヤモンド社から発信してみようと思ったのです。」(p276)

本気の確信犯!である。

ダイヤモンド社の本は、確かに「○○力」を伸ばすにはどうすればよいか、に関する本を沢山出しておられて、個体能力主義を重視していると世間で認識されている出版社である。だが、その個体能力主義の本を沢山出来ている出版社で、ご自身の商売道具を惜しげ無く公開しながら、伝えたい関係論的能力主義の本を出すことが出来るのが、テッシーの懐の深さ、というか、本気度合いが伝わってくる。

社会が本当に変わるには、「どうしても、勝者の側から意識を変えてもらわないといけない」のだ。だからこそ、勝者のリーダーに向けて、いかに他者を変えるのではなく、自己認識を変えることが大切か、を説く、ほんまもんのリーダーシップ論を唱えている。しかも、それはテッシーの商売道具を惜しげも無く公開しながら、これを使えばあなたと他者の関係性を変えられる、という秘伝のタレを出しながら、だから私の言うことに、ちょっと耳を傾けてほしいと懇請する。これこそ、本気のリーダーシップ論であり、社会変革論そのものなのだ。

そういう意味で、本気の確信犯の本書は、実に読み応えのある1冊である。