読ませる書評は才気爆発

新聞の書評、だけでなく、書評ブログや書評本など、本に関する記事は、結構あれこれ読んでいるつもり、である。だが、一風変わった書評本をご恵贈頂いた。

「『なんで勉強しないといけないの?』
こう聞かれたら、あなたはどう答えますか?
なんで勉強しないといけないんでしょうね。円周率とか元素記号とか古文単語とか、何の役に立つんでしょうね。
-この問いに対していろんな回答があると思いますが、今回紹介する『枠組み外しの旅』の作者である竹端先生なら、きっとこう答えるんじゃないかなぁ、と思います。
『しゃーないって諦めずに、自分や世界を変えるため』。
もちろんお聞きしたことはないので私の勝手な妄想なのですが、この本は確実にそう語りかけてきます。」
(『人生を狂わす名著50』三宅香帆著、ライツ社)

著者として拝読してびっくり。はい、まさしくその通り! 嬉しいほど本質を突いてくれている。そうそう、そういう思いで格闘しながら本を書いたのだ、と。

三宅さんは、まだ現役の大学院生で僕より20才も下である。にも関わらず、僕の20代より(というか僕の人生より)遙かに豊かな読書遍歴をお持ちなだけでなく、本への愛情が実に深く、本との対話能力が極めて優れている読み手でもある。以前彼女が僕の本をブログで取り上げて下さった時も、ずいぶん核心を掴んで下さっているな、と思ったが、今回、そのブログを書籍化するにあたり、かなり掘り下げて加筆されたようだ。

確か橋爪大三郎だったと思うが、書評を「規定演技」と語っていた。あくまでも「他人の作品を紹介する」という強い枠組み規定がある、という意味での「規定演技」。「その書評を読んだら、紹介本を買いたくなる」「書評を読んだだけで、作品のエッセンスがわかる」といったポイントをクリアしないと、文章が上手くても評価されない性質の文章。

で、この三宅さんによる書評本が希有なのは、「規定演技」としての質を担保した上で、三宅さんの雄叫びや情熱がしっかり伝わってくるという意味で、「自由演技」としても成立している作品であるからだ。

「規定演技」としての質の良さは、拙著の紹介文を拝読して、その本質を掴んで紹介して下さった、だけでなく、他の書評を読んで、気づけば何冊も注文していたことからも、ご理解頂けると思う。そして、「自由演技」としては、これは文字通り20代前半にしか書けない、瑞々しさや情熱があふれた文章なのだ。本が好きで、その著者の世界観にはまり込んでいる、だけでなく、はまり込んでいる自分そのものを冷静に見つめる視線も持っている。だからこそ、情熱的でありながらも、論理的に本の全体像を把握し、ここぞ、という部分を書評としてまとめる力量を持っておられるように感じた。

それから、選んだ本が、実に渋い。『悪童日記』、『時間の比較社会学』、『堕落論』、『チョコレート語訳みだれ髪』、『わたしを離さないで』・・・本好きなら誰しも知ってるこれらの本に、無名の拙著まで入れて、「世界の規範から外れる」という視点で選んだ50冊。そして、「この本を読んだ方におすすめする『次の本』」のセレクション(各3冊)もなかなか見物で、拙著からそうつなげるか、と選ばれた本に唸った。つまり200冊の本の世界が立ちあがってくる、実に読み応えのある書評でもある。

そんな才気爆発の書評家のプロフィールには、大学院では国文学を研究していて、テーマは「万葉集における歌物語の萌芽」をしている、と書かれていた。書評をこれだけ歌い上げる物語構成能力をお持ちなのだから、きっと研究でも面白い仕事をして下さる、と期待している。

そして、彼女の書評から教わったオモロそうな小説が届くのを楽しみに待っているのも、またよし。さて、どれから読もうかしらん。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。