メモリアルな一週間

この一週間は、あれこれメモリアルな出来事に遭遇しながら、あっちゅう間に過ぎていった。

11月9日の水曜日。冷え切っていたが、朝から澄み切った青空。大学に出かける途中、愛宕トンネルを抜けてすぐの右側に、甲府盆地が見える。この日はすごく天気が良かったので、富士山がスッと見えた。そんな朝から晴天のその日の2限は、来年度の3年ゼミの募集説明会だった。他の先生がお話になられている最中、窓から見える図書館前の紅葉を前に、1年前の11月9日のことに想いを馳せていた。

この1年前の11月9日も、今年と同じように晴れだった。そして、僕はその日、甲府の、山梨学院にいた。そう、それが大学の面接の日であり、生まれて初めて甲府で降り立った日でもあったのだ。澄み切った青空と鳥のさえずりの聞こえるキャンパスが妙に印象に残っていた。それから1年後、こうして実際に大学の一員として甲府に住んでいることに、摩訶不思議なご縁を感じていた。ちょうど1年前の11月頃、と言えば、フリーター生活二年目の後半を迎え、これもご縁あって3月までの研究資金は頂いていたものの、その後の見通しは全く立たず。しかも、二年間で大学の常勤職に書類を出した数は40を超え、もうダメかも、などと弱気になっていた。そして、自分の出身の人間科学部でも、あるいは自分が研究していた福祉学部でもない法学部、という未知の領域への期待と不安が膨らんでいた。ご縁、と言えば、確か朝9時か10時頃からの面接だったので、前日は富士見の恩師のお宅に泊めて頂いた。いつものように美味しいお酒と料理で面接前日の緊張をほぐして頂き、いくつかの貴重なアドヴァイスも頂いた。そんなご縁もあって、その数日後、採用の連絡が届いた。ちなみに変なもので、この採用通知の数日後、別の大学からも同様の連絡が届いた。「落ちるときは落ち続けるけど、通るときは続けて通るもんだ」としみじみ感じていた。

実はこの11月9日、というと、もう一つ大きなつながりがある。これは、僕がこのフリーター時代にスタッフとして働かせて頂き、貴重な経験とパースペクティブを与えて頂いた、NPO大阪精神医療人権センター(http://www.psy-jinken-osaka.org/)が20年前にスタートした日、でもあるのだ。博論は終えたが仕事が決まらなかった(ということは時間だけあった)この時期にこのセンターと関われたことが、今の自分に与えた影響は大変大きい。自分の視野を開き、そして現場第一主義や当事者の声を聞くことの大切さを身をもってOJTさせて頂いた、本当に貴重な日々だった。そして、様々な出会いにも恵まれ、精神保健福祉に関する視野がこの2年でぐんと深まった・・・。そんなことを、土曜日、大阪で、しみじみ思い出していた。この日はNPO大阪精神医療人権センター設立20周年記念集会に駆けつけていたのだ。

記念集会のタイトル「精神病院はどこまで変わったか?」に表されるように、この20年の日本の精神保健福祉の変わったこと、変わらなかったこと、をある種総決算するような、本当に濃厚なシンポジウムだった。4時間の内容が文字通り、あっという間に感じられた。180人の会場が一杯になるほど、多くの皆さんが興味を持って足を運んでくださったことも、元スタッフの一員として嬉しかった。そして、懇親会の場で、お世話になった様々な方々との歓談の中で、改めてこのセンターに関わることによって頂いたご縁への深い感謝を新たにしていた。

それ以外にもメモリアルはてんこ盛りだった。金曜日の大阪入りに際しては、西宮まで空港バスに乗った際、名神高速の車内から、3月まで住んでいたマンションをちらと見かけた。以前住んでいた部屋は、パラボナアンテナもついていて、新たな住人を獲得したようだ。あのマンションの近所にはお気に入りの花屋があって、兼業主夫の時代はガーデニングもどきにもはまっていったっけ。最近はすっかりそんな時間もないなぁ。帰りは帰りで、大学1,2年の一般教養の時代の通学路である阪急宝塚線に乗って蛍池へ。大学前半といえば、なんだかあか抜けず、バイト三昧の暗中模索で、あまり楽しくなかったよなぁ。もっと自分の殻に閉じこもらず楽しんでおけばよかったのに・・・。過ぎゆく駅と記憶が重なり、不思議な感じがする昼間の快速急行だった。

文字通り、この1週間は過去の自分を再確認する日々だった。でも、それが今の自分に繋がっていて、そして未来の自分への投企の第一歩となる、と思うと、大切な断片の数々だ。次の10年20年に、どんなご縁がいただけるのだろう、そう思うと、新たな週を前にして、ワクワクしてきた。

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。