気が付けばもう7月。
ももやすももが美味しい季節になってきた。大家さんに頂いた甘酸っぱいすももを、今朝も三個ほおばる。
ここのところ、朝は6時前には目覚める。年を取った、のもあるかもしれないけど、カーテンのすき間から覗く明るさと気持ちのいい鳥の鳴き声(たまに鬱陶しいカラスの声もあるけれど・・・)で、勝手に目が覚めるのだ。以前はそれでも「まだ後1時間」と無理して眠ろうとしていた。だが、「身体が起きるのなら、起きて活動した方がいいよね」と思い直し、一人サマータイムの導入。その代わり、もう11時には眠くて床に入っております。
さて、最近読んで「おもろい切り口」と思ったのが、佐藤優氏の視点。養老孟司氏が書評で褒めていた本を買って読んでみると、確かに面白くて、最後までスルッと読んでしまう。ある新聞に載せた時評と後からの注釈、という形で進んでいく本論はもちろん面白いのだが、むしろ後書きの方が気になった。
「第二の要素である分析の視座について筆者の考えを述べたい。
いまから約200年前、ドイツの哲学者ヘーゲルは、『精神現象学』を著し、この世界に現れる出来事をどのように解釈したらよいかについて、ユニークな方法を提示した。(中略)ヘーゲルの分析手法の特質は視座が移動することだ。ヘーゲルは、特定の出来事を分析する場合、まず当事者にとっての意味を明らかにする。対象の内在的論理をつかむことと言い換えてもよい。その上で、今度は、対象を突き放した上で、学術的素養があり、分析の訓練を積んだ“われわれ(有識者)“にとっての意味を明らかにする。更に有識者の学術的分析が当事者にどう見えるかを明らかにするといった手順で議論を進めていく。当事者と有識者の間で視座が往復するのだ。この方法が国際情勢を分析する上でも役に立つ。」(佐藤優『地球を斬る』角川学芸出版 p266-7)
「対象の内在的論理」と「有識者の学術的分析」「の間で視座が往復」すること。これが実に鮮やかに出来ていることが、この佐藤氏の時評を引き立たせている。彼は「この方法が国際情勢を分析する上でも役に立つ」と書いた後に北朝鮮の「内在的論理」に肉薄し、「学術的分析」との「視座」の「往復」を鮮やかに示してみせるが、これはなにも「国際情勢を分析」するときにだけ、役立つものではない。福祉の世界だって、全く同じ事が必要とされている。
インテークや地域診断、アセスメントという言葉で語られる時、「対象の内在的論理」を掴むことが念頭に置かれている。ただ、佐藤氏の分析を読んでいてハッと気づいたのだが、その際に「対象」からの聞き取りをしながらも、「内在的論理」ではなく「有識者の学術的分析」をこそ、優先させていないだろうか。「この人は○○できないから、△△しないと仕方ない」という言葉を、アセスメントの場面で聞くことがある。特に、認知上の障害を持つ方やコミュニケーションの障害を持つ方へのアセスメントの際、「有識者」の側が、「よくわからないから」という理由で、しばしば本人の「内在的論理」に肉薄せずに、「“われわれ(有識者)“にとっての意味」だけですませてしまう場面がある。これは、福祉の「有識者」も陥りやすい手法であり、「内在的論理」をくぐらせることなく、外形的基準(しかも標準化出来る基準)のみで判断することの危険性を、障害当事者は身体を張って訴えてきたのだ。
福祉の世界では、この往復は、すごく難しい。「内在的論理」をきちんと聞くと、そっちに引っ張られてしまい、「対象を突き放した」議論が出来なくなることもある。逆に、「有識者の学術的分析」を前提にしすぎると、当事者の訴えの中から、分析者の側の視点に馴染みやすい部分のみを選択的に抽出し、結果として本人の「内在的論理」の構築に至らないケースもある。この視点の往復こそ、難しいが、それが出来なければ、インテークや地域診断なんて、絶対に不可能なのだ。
私もここ2ヶ月で、以前から書いている「特別アドバイザー」の仕事で、28市町村のうち、23市町村の役場に訪問を終えた。出かけてみて本当によかった、と思うのは、県庁や県の出先機関に集まってもらって話を聞くだけでは絶対につかめない、各市町村(やその担当者レベル)の「内在的論理」を肌で感じることが出来るからだ。「特別アドバイザー」としては、たぶんに「有識者の学術的分析」が求められるのだが、それを「内在的論理」とはかけ離れた「べき論」で片づけてはならない。あくまでも一つ一つの自治体を思い浮かべながら、「有識者の学術的分析が当事者にどう見えるか」という「視座」の「往復」をしつづけるからこそ、その地域にあったアドバイスなり支援が可能である。支援もアドバイスも助言も、当たり前のことだが、標準化できるものではない。「学術的分析」に一定の柱があったとしても、あくまでも「内在的論理」との呼応関係の中でのみ、その柱は生きてくる。そのあたりをきちんと理解して対話し続けるか、が私の仕事にとっても大きな課題になっている。
国際情勢を分析する「インテリジェンス」から、私自身へのアドバイスをもらえるとは思ってもいなかった。