自治会を超えるNPOの可能性

先週、高知県社協が主催のイベントで講演をさせて頂いた。せっかく高知に伺うのだから、とあったかふれあいセンターを視察させて頂きたい、というリクエストを出した。その上で、「住民自身がリードするボランティア・NPOなどの活動がどう豊かに発展して行っているのか、街作りと連携出来ているか、の視点でオモロイ活動をしている現場を知りたい」という要望を伝えた所、そこにぴったりの場所があります、と教わり、連れて行って頂いた場所がある。それが、あったかふれあいセンターとかの、である。

高知空港から1時間半かけて辿り着いたのは、高知県中西部に位置する佐川町の斗賀野地区。地区の中心部にある、小学校と保育園に挟まれた場所に、そのあったかふれいセンターとかのがあった。おじゃますると、ちょうどお姉様方が編み細工で鞄を作っておられる教室が開催されていた。予定表には「自由にすごす日」と書かれているが、このように、教えるスキルを持つ地区の人が、教わりたい人に自然発生的に教えているのが、このセンターの日常茶飯事ということ。私たちがお話しを伺っている間にも、色んな人がでたり入ったりして、お茶を飲んだり、そのサークルに加わったりしている。社協のサロンのような「参加者の固定化」をイメージしていた僕にとって、まずこれが大きく違う現実。
ここで、このセンターを運営するNPO法人とかの元気村理事長の庄野孝也さんと、センターのコーディネーターを務める森田さんにお話しを伺う。この二人の話が、抜群におもしろい。
庄野さんは元々高知市内のデパートに勤めていて、現役時代は地域活動にはご縁がなかった。それが、交通安全の街頭指導に誘われたのが、退職後の15年前。そして、14年前には、農業の推進や環境保全を通じた地域コミュニティー作りを推進する「とかの懇話会」を立ち上げる。その延長線上で、地域の様々な団体と大同団結して、地域全体の事を考えるNPOを平成17年に立ち上げ、住民が集まる「とかの元気村役場」を平成19年にスタートさせる。そして、地域住民の居場所提供だけでなく、「秋祭り」のイベント開催や地域の小学校の支援活動、地区運動会の開催や、町の図書館・公園の指定管理など、その活動範囲を大きく拡大していく。その流れの中で、平成26年には「あったかふれあいセンター」も立ち上げ、買い物支援、生活支援なども有償ボランティアで引き受けるなど、活動を拡げていった。
どうしてこんなに活動がうまく展開出来たのですか、と伺うと、庄野さんは「お節介焼きの気質があるから」と笑う。ただ、それだけでなく、現役時代に組織マネジメントに携わった強みを活かし、行政や社協とも是々非々で議論をする。また、「わしはワンマンやから」と言いながら、NPO法人の理事会などでは、庄野さんの子供の世代である森田さん達の意見をけ入れ、決まりかけていた計画の変更も行う柔軟性も併せ持つ。しっかりとした推進力と、周りの人を巻き込む柔軟性、お人柄を兼ね備えた、地域の人が認めるリーダーだ。
一方、森田さんは「私は普通の主婦だから」と仰るが、なにを、なにを。センターに集う住民さん達の何気ない会話の中から、その人の持つ趣味や特技、強みを引き出し、ストックする。その上で、田んぼの刈り、秋祭りや運動会など、様々なイベントで、住民さんたちにうまく「お願い」し、手伝って頂く「甘え上手・頼り上手」である。だからこそ、このセンターの登録者は690名であるが、そのうち男性は35%を占めるという。そもそも、登録者数の多さにも驚くが、そのうち35%が男性、というのも、また驚きの数字である。僕が見ていて、このNPOをつうじて、住民達が自主的な活動を楽しく行い、つながりややりがい、役割や責任、誇りを取り戻す黒子役の支援が、このセンターのコーディネーターやスタッフの仕事なのだと思った。

さらに、このNPOのおもしろいところは、37地区の自治会では出来なくなった地域活動を、小学校区のNPOとして引き継いでいった、という部分。例えば地区の「たらふく秋祭り」、NPOが主催して行う事で、町外の参加者も含めて5000人以上が参加する大イベントである。また敬老会もNPO主催となると、140名が参加するようになった。この部分は、行政や自治会と比べて、住民のニーズに寄り添いながらも、NPOとして組織的に動くことによる成果を出している、とも言える。さらに、小学校の持っている田んぼの田植えやら稲刈りまでも、地域住民を巻き込みながら支えるだけでなく、小学生達と地元住民が関わる「活性化支援」まで行う。この部分は、PTAが担っていた部分を肩代わりしている。こう考えると、しがらみや義務感が多い自治会活動、現役世代にとって参加にハードルが高いPTA活動を、地元のNPOが引き継ぎ、地区の元気高齢者たちが自分たちの持てる特技や力を発揮して、地域のために面白く貢献しよう、という新たなNPOの一つの形である。

なぜ、この活動がこんなに維持・発展しているのか? それを佐川町社協の田村さんに伺った時、高知らしい、でも大切なヒントを教えて下さった。
「みんな、活動が終わったあとの、コレが楽しみですから(笑)」
「コレ」とは、おちょこで飲む姿。そう、とかの元気村に関わる人々のモチベーションとは、もちろん活動のやり甲斐もあるが、その後、地区内の色々なひとと交わりながら、酒を酌み交わせる、大人の付き合いの面白さにもあるのかもしれない。そういえば佐川町は、全国的に有名な銘酒「司牡丹」の蔵元がある町で、乾杯は日本酒で、という「乾杯条例」まで制定している。ただ、飲み会といっても、いつも同じメンバーでばかり集まっていては、面白くない。このNPOの活動で出会った、同じ地区内で何となく顔を見たことはある、けれど、そんなにゆっくりとしゃべったこともない、多世代の男女混ぜ合わせた人々と交わる飲み会は、それだけで地域活性化になる。しかも、活動の推進と飲み会のセットは、NPO活動の発展の両輪にもなる。

「元気村に関わる事で、『俺の地域』という帰属意識も持てるし、多世代の飲み会で『夢を語り合える』」と田村さん。なるほど、そんな関わり合いを続けたら、勝手に地域活動は活性化されますね。もちろんそこには、元気村をNPOにした庄野さんのリーダーシープや、うまく多くの人を巻き込むプロの森田さんのお人柄、といった属人的要素も多分にあるだろう。でも、この展開なら、自治会活動の展開や新しい総合事業の生活支援コーディネーター事業をどう取り組んで良いのかわからない、他の自治体にも大きなヒントになるのではないか。そんなことを学ばせて頂く訪問だった。

付言すると、この活動が他の社協のサロン活動や、住民参加型地域福祉と一線を画するところがあるとしたら、それは「本物志向」にあるだろう。ほんまもんの地域課題を取り上げ、そこに住民のほんまもんの実力を借りようとするから、関わる住民達も本気になる。「お客様」的なデイサービスやサロン、あるいは専門家が「住民のために」と一方的に考える企画と違い、本気で地域課題に立ち向かい、楽しみながら解決していこう、という夢と希望が、この「本物志向」の中に隠されている。だからこそ、多くの住民達が、この活動を「ほんまもん」だと感じ、その魅力にはまっていくのではないか。そんなことをも帰りの道中で考えていた。

追伸:帰りに直売所で買った文旦と司牡丹も、死ぬほど旨かった(^_^)

投稿者: 竹端 寛

竹端寛(たけばたひろし) 兵庫県立大学環境人間学部准教授。現場(福祉、地域、学生)とのダイアローグの中からオモロイ何かを模索しようとする、産婆術的触媒と社会学者の兼業。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、2018年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。日々のつぶやきは、ツイッターtakebataにて。 コメントもリプライもありませんので、何かあればbataあっとまーくshse.u-hyogo.ac.jpへ。